第10回(6月17日)から数回にわたり,「インターネットとわたしたちの生活」をテーマに話を進めていきます.キーワードはネットと地域社会,ファスト風土化とネット,スマートフォンと「つながりっぱなし」の日常です.
※ 6月24日(第11回)の授業をふまえ,レジュメのレイアウトを若干修正しております.また図に関してもわかりやすく作図し直しました.内容そのものに変更はありません.
ゼロ年代における「デジタルネイティブ」の誕生と対人関係のあり方
1. きょう話すこと
- デジタルネイティブとは誰か
- デジタルネイティブ論への批判
- オンラインコミュニケーションの形態とデジタルメディアの特性
- デジタルネイティブからみた日本社会のコミュニケーション空間
2. 今回の授業のネタ元(参照先)
- 木村忠正(2012)『デジタルネイティブの時代 なぜメールをせずに「つぶやく」のか』平凡社新書.
- 著者のWebサイト —> 「木村忠正の仕事部屋(http://www.ne.jp/asahi/kiitos/tdms/hp.j.html)」
3. デジタルネイティブの誕生と批判
3-1. デジタルネイティブの定義
「デジタルネイティブ」とはICTに青少年期から本格的に接触した世代
- 1980年前後以降に生まれた世代
- 2001年:米国のM. プレンスキーが提唱
- ICTを利用する能力・スキル・行動と言葉の使い方
- デジタルネイティブ native とデジタル移民 immigrant
3-2. デジタルネイティブ論への批判
- デジタルネイティブ論における主張(骨格)
- 高いICTリテラシー(知識とスキル)を備えた世代
- 世代特有の学習スタイル(デジタルネイティブ世代が特に好む学習スタイル)の存在
- 反「デジタルネイティブ」論
- ICTリテラシー能力は世代内でも個人間の差異が大きい
- デジタルネイティブ世代を一様にとらえることが社会的な問題を隠蔽するおそれ
- 日常生活でのICT利用と学校教育でのICT利用とその効果は区別して考察する必要がある
- ICTリテラシー能力は世代内でも個人間の差異が大きい
デジタルネイティブを巡る議論が表層的なものに陥る危険性がある.
- S. ベネット( Sue Bennett )らによるデジタルネイティブ論批判
- 概念そのものへの批判と議論に対する脆弱性(弱点)の指摘
- デジタルネイティブ論は十分な実証データに裏付けされていない
「デジタルネイティブ世代」と他の世代(それ以前の世代)との差異を強調するあまり,デジタルネイティブ世代の中にある差異に関心を払わない.また利用状況(日常生活か学習環境か)を同一視する傾向がある.
3-3. ネット社会分析としての「デジタルネイティブ」
- 「デジタルネイティブ」概念は1990年代における日本のネットワーク社会化を分析する重要な視点
- 1980年前後生まれ以前/以降の世代 で対比
- デジタルネイティブ世代そのものを情報ネットワークの進展(「四つの波」)に対応させて詳細に分析する
- デジタルネイティブ「4世代」分化説
- 初期のデジタルネイティブ世代は30代に
- ネットワーク社会である日本社会を分析する手法として適切
- デジタルネイティブ世代が社会の中核世代になっていく過程を分析
- 2000年代(「ゼロ年代」)の社会の分析
3-4. 木村によるデジタルネイティブの世代区分(4世代)+将来予測
第1世代(〜1982年生まれ)
- ポケベル(ポケットベル),ピッチ(PHS)世代
- コンテンツが不十分で,ストラップ,デコレーション,絵文字などで自己表現
- 「デジタル移民」の要素が強い
第2世代(1983〜87年生まれ)
- 高校時代,パケット代を気にしながら携帯メール使う
- PCチャットに小・中学校ではまる人も
- 大学時代にミクシィが始まり,急成長を担う中核世代に
第3世代(1988〜90年生まれ)
- 女子中高生の問で携帯ブログ・リアルが大流行
- 高校でパケット定額制となり,SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、動画サイトが普及
- ブロードバンド常時接続は中学生で経験
第4世代(1991年生まれ〜)
- 小学校でPCの授業
- 中学からパケット定額制となり,複数のSNS,ブログを使い分ける
- オンラインだけの人間関係,ボットも生活の一部に
第5世代?(1994年生まれ〜)
- 小学校でブロードバンド常時接続を経験
- 中学校でTwitter登場,ニコニコ動画(β ver.)サービス開始,iPhone発売開始
- 高校でニコ動ユーザ100万人達成,ネット人口普及率は78.2%(高校生は95.6%)
4. デジタルネイティブにおけるオンラインコミュニケーションのあり方
4-1. 日本社会における情報ネットワークの普及
- 第一の波(1996〜2000)
- 携帯電話の普及/音声通話・電子メールのモバイル化
- 第二の波(1999〜2004)
- インターネット利用者の拡大/携帯電話の「ケータイ」化
- 第三の波(2003〜2008)
- インターネットのブロードバンド化/Web2.0の登場
- 第四の波(2008〜2011)
- 「スマホ」の登場/モバイル・インターネットの拡大
4-2. 社会的コミュニケーション空間の構造と変容
絶えず創り出される「空気」
- デジタルネイティブ(に関する議論)における「空気」
- ミクロなコミュニケーション環境,つまり1対1または少数間での対人コミュニケーションにおける圧力
- 場の気分・雰囲気・感情を同調させる圧力とオンラインコミュニケーションの関係
- ボワセベンの対人距離のゾーニングモデル【図1】
- 空気はすでに存在し,受動的に読み取るものではない
- コミュニケーションの状況と当事者たちの相互作用の中で絶えず創り出される
距離感と圧力のコントロール
- 対人距離感と空気を読む圧力はゾーンごとに適切なレベルが設定される【図2】
- 個別の対人関係においても実践 = コミュニケーションにより絶えず創り出されるもの
- 距離感と圧力のレベル・コントロールはメディアを媒介したコミュニケーションでも行われる
- メディアコミュニケーションの構成要素を距離感と圧力のレベルをコントロールする手段として利用する
- それぞれのメディア内部で分化し,メディア同士の相互作用により社会的コミュニケーション空間を構成する
- メディアは行動・態度・言葉遣いの複合的体系と社会的コミュニケーション空間を構成する【図3】
- それ自体と他のメディアとの相互作用による
- 対人距離感&空気を読む圧力のレベルを創り出す
【図3】オンラインメディアによる社会的コミュニケーション空間の構造
- デジタルメディア = オンラインコミュニケーション
- (アナログメディアにより構成された)社会的コミュニケーション空間を解体・再構築した
- デジタルメディアの空間は動的に更新され続け,解体と構築がパラレル(並行して)行われる
5. ゼロ年代日本のオンラインコミュニケーションと社会
5-1.「空気」を読む圧力
- ブログ(Weblog)による社会関係の分節化【図4】
- ブログの読み手とは既知/未知の関係性
- オンライン「のみ」の関係を構築できる可能性
- 「同じ関心・趣味」という空気の共有
- 「空気を読む」ことを強制されない関係
- ブログにより「見知らぬ1次」の関係性が登場
5-2.「テンション共有」による親しさの増大
- 「気分の高揚感」としての「テンション」
- コミュニケーションにおける「テンションの共有」へのアンビバレントな態度
- コミュニケーション生態系の形成・変容
- テンションの共有(シンクロ)への志向性【図5】
【図5】親密さ/テンションによるコミュニケーション空間の構造
- 「インティメイト・ストレンジャー」論(富田英典)【図6】
- 親密さ(富田)=親密さ(木村)+テンション共有
- テンション共有を無理強いしない,というベクトル
- Twitterというアーキテクチャ
5-3.「コネクション」という社会原理の拡大
コミュニティとソサイエティ
- コミュニティ = 情緒的親密さを含む長期継続的・安定的な関係
- ミクシイ(mixi)
- ソサイエティ = 近代社会・産業社会における都市空間/パブリックとプライベート/派生語「ソーシャル」
- フェイスブック(Facebook)
- コミュニティとソサイエティは情報ネットワークにおける対人関係・集団形成のメタファとして機能
「コネクション」のベクトルをもつコミュニケーションへの志向
- 新しい対人関係・集団形成の原理
- 多様性・差異・変化・流動性
- ツイッター(Twitter)
- ツイッターのアーキテクチャが実現するコミュニケーション
- 「場(場所)」・「(会話の)キャッチボール」というメタファの解体
- 「タイムライン(TL)」は一定した安定性や境界を持つ「場所」や「コミュニティ」ではない
- 会話の「キャッチボール」ではなく「つぶやき」に「絡む」ことで実現するコミュニケーション
- ツイッターはフォロー/フォロワーの非対称的=非互酬的関係をベースとしたコミュニケーション
- 「絡み」によるコミュニケーションがテンション共有への志向性と合致
5-4. 高い「不確実性回避傾向」
- サイバースペースに対する強い不信感
- ネット利用に伴う不安感
- オンライン上での低い自己開示や高い匿名性への志向にある背景
- 一般的な社会的信頼感の低下
- 「不確実性回避傾向」(組織人類学者ホフステードが提起した概念)
- 不確実な状況や未知の状況に対して脅威を感じる程度
- (日本社会では)社会的信頼感の高低とネット利用に伴う不安感にはほぼ関係がみられない
5-5. 今後の課題
- 日本社会にみられる高い不確実性回避傾向の克服(解消)
- 「安心志向のジレンマ」
- 「ソサイエティ原理」の強化
参考モデル図
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