第4回(4月30日)から第6回(5月20日)までは「メディアとしてのインターネット」をテーマに話を進めていきます.キーワードはコンピュータの歴史/ネットワーク技術/オンライン・コミュニティなど,です.
1. きょうの目的
現代のネット社会について,人びとのあり方(アイデンティティのあり方)や,さまざまな出来事(社会現象や流行,事件など)をネット・コミュニケーション論の視点や文脈から理解するためには,まずはコンピュータやインターネットの歴史に加え,わたしたちにとって身近な存在である「ウェブ」について理解しなくてはなりません.今回は,ウェブが登場から現在までどのように語られてきたのか,少し振り返ってみましょう.
2. コンピュータ+ネットワーク技術+ハイパーテキスト=「ウェブ」
2-1. 全ての情報を我が手に
- ヴァネヴァー・ブッシュと「メメックス」
- 1945年の論文『As We May Think(考えてみるに)』
- 経済評論家・山形浩生氏による訳文
- 夢の機械「メメックス(Memex, MEMory EXtender)」
- 「ハイパーテキスト」概念の提唱
- 1945年の論文『As We May Think(考えてみるに)』
- テッド・ネルソンと「Xanadu(ザナドゥ)計画」
- 「ハイパーテキスト」「ハイパーメディア」という語を1965年に作った思想家・技術者
- ハイパーテキストを含むあらゆる情報を結びつけようとするのが「ハイパーメディア」
- ダグラス・エンゲルバートと「マン・マシン・インターフェース」
- マウス/ビットマップ・ディスプレイ/GUI/ハイパーテキストの開発者
2-2. ウェブの誕生
- ティム・バーナーズ=リーと「World Wide Web」
- 1989年に欧州原子核研究機構 (CERN)に提案された文書
- 世界で最初のWebサーバ(1990年)
- Webを支える標準化規格
- HTTP(Hypertext Transfer Protocol)
- URI(Uniform Resource Identifier)
- HTML(HyperText Markup Language)
- 本格的なウェブ・ブラウザ「Mosaic」
- イリノイ大学・米国立スーパーコンピュータ応用研究センター(NCSA)にてマーク・アンドリーセンが開発した「NCSA Mosaic」
- テキスト(文章)とイメージ(画像)を同一画面に表示
- 後の「Netscape(ネットスケープ)」へ/ネット初のベンチャー企業の登場
3. わたしたちの社会へ展開・普及するウェブ
3-1. ウェブ1.0の時代(1990年代)
- インターネットが社会へ普及する代名詞「ホームページ」
- パーソナルかつデジタルな情報「発信」の手段
- メディアの持つ潜在力は「双方向性」/可能的様態(水越伸)としては「単方向?」
3-2. ウェブ2.0の時代(2000年代)
- ティム・オライリー(考案者)と梅田望夫(『ウェブ進化論』(2006年)と「残念な日本のウェブ」)
- 集合知の空間
- Wikipedia(ウィキペディア)
- ウェブログ(Weblog)の登場と「ブログ論壇(ブロゴスフィア)」への期待
- UGC(User Generated Content)/CGM(Consumer Generated Media)化するウェブ
- 2ちゃんねる/ニコニコ動画/YouTube
- ウェブ2.0時代のアイドル「初音ミク」
- Google ChromeのCM
- Google + Amazon = Googlezon(グーグル・アマゾン化する社会)
3-3. リアルタイム・ウェブの登場とソーシャルメディア化へ(2010年代)
- SNS(ソーシャルネットワークサービス)
- Facebook(フェイスブック)/mixi(ミクシィ)/Twitter(ツイッター)
- 津田大介『Twitter社会論』(2009年)
- 「名乗り」によるアイデンティティ問題
- 「コミュニティ」か「クラスタ」か
- Facebook(フェイスブック)/mixi(ミクシィ)/Twitter(ツイッター)
- ウェブの「24時間営業」化=リアルタイム・ウェブ
- ソーシャルメディア化するウェブ
- あらゆるウェブ・サービスが統合されていく
- 『アーキテクチャの生態系』(濱野智史)(2008年)
- 擬似同期(ニコニコ動画)と選択同期(Twitter)
- ウェブの未来または「アプリ化」するインターネット
4. まとめ
- (第4回)コンピュータは初め「計算機」として開発されたが,わたしたちの社会へと普及していく過程で,その可能性に気づいた研究者や技術者たちが「メディア」としての意味を与えた.
- (第5回)オンライン・コミュニティはインターネットの誕生とともに現れ,それはわたしたちの「居場所」として機能した.一方でパソコン通信という(インターネットとは異なる)コンピュータ・ネットワーク上にも多くのコミュニティが形成された.それぞれが異なる文化を持ちながら最終的にはひとつに統合されることで多様性をもったオンライン・コミュニティのあり方が生まれた.
- (第6回)もともとインターネットの可能性のひとつであった「ウェブ」が現在ではあたかもネットそのものの存在として語られるようになっている.またそれを裏付けるウェブ・サービスも数多く登場してきている.この現象もインターネットの(メディアとしての)可能的様態なのだと言えるだろう.
参考文献(このレジュメからリンクしたもの以外)
- Hillery, G.A.Jr (1955) Definitions of community: Area of agreement. Rural Sociology, 20.
- 川上善郎・川浦康至・池田謙一・古川良治(1993)『電子ネットワーキングの社会心理』誠信書房
- ハワード・ラインゴールド(会津泉訳)(1995)『バーチャル・コミュニティ』三田出版会
- 村井純(1995)『インターネット』岩波新書
- 浜野保樹(1997)『極端に短いインターネットの歴史』晶文社
- 村井純(1998)『インターネット2―次世代への扉』岩波新書
- 加藤晴明(2001)「コンピュータ・コミュニケーションのメディア文化」『メディア文化の社会学』福村出版
- 喜多千草(2003)『インターネットの思想史』青土社
- ティム・バーナーズ=リー(高橋徹監訳)(2001)『Webの創成―World Wide Webはいかにして生まれどこに向かうのか』毎日コミュニケーションズ
- ばるぼら(2005)『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』翔泳社
- 山形浩生監修(2006)『あたらしい教科書(9)コンピュータ』プチグラパブリッシング
- 三浦麻子(2008)「インターネット革命―私たちのコミュニケーションを変えたもの」橋元良明編著『メディア・コミュニケーション学』大修館書店
- 大向一輝・池谷瑠絵(2012)『ウェブらしさを考える本―つながり社会のゆくえ』丸善ライブラリー
- 粉川一郎(2012)「ネット空間の中の私たち」矢田部・山下編『アイデンティティと社会心理』北樹出版
- 杉本達應(2013)「文化としてのコンピュータ―その「柔軟性」はどこからきたのか」飯田豊編『メディア技術史』北樹出版
- 杉本達應(2013)「開かれたネットワーク―インターネットをつくったのは誰か」飯田豊編『メディア技術史』北樹出版
- 粉川一郎(2013)「ネットコミュニティのプロデュース」中橋雄・松本恭幸編『メディアプロデュースの世界』北樹出版
- 村井純(2014)『インターネットの基礎―情報革命を支えるインフラストラクチャー』角川学芸出版