情報人類学(第3回)4月23日


印刷 印刷

1. きょうの目的

  • 前回(4月16日)の授業で説明した内容
    • ネット社会におけるアイデンティティの問題について
    • CMCというコミュニケーション形式とわたしたちのアイデンティティ形成
  • 今回(4月23日)の授業ではCMCにおける「名乗り」の継続性をもとに考える
  • 授業の後半の内容は「オンライン・コミュニティ」について
    • あるアイデンティティをもった「わたし」たちが集い
    • コミュニケーションを交わし合うことにより形成される
    • そのような場所が「コミュニティ」と言われるもの

2. CMCにおけるアイデンティティ問題(そのあり方を考える)

2-1. CMCにおける「名乗り」と継続性

  • 前回の授業:「名乗り」方の3つの基本型(実名・顕名・匿名)にもとづく6つのパターンについて詳細→第2回の2-3.
  • 前回に追加:名乗り(名乗り方)に継続性があるのかどうか
  • 前提:CMCにおいて顕名を名乗る
    • 同じハンドルネーム(ニックネーム)でCMCを継続する
    • そこに「わたし」を見ることができるだろう
  • ここでのアイデンティティを「オンライン人格」と呼ぶことにする
    • 粉川一郎によるとCMCにおけるオンライン人格は,3つのパターンに分類される 1)
  1. 同一人格であることをシステム側が担保する
  2. 同一人格であることを発言者がアピールする
  3. 同一人格であることを発言者もシステムも関与しない
  • 重要:CMCの主体としての「わたし」がオンライン人格を備えているかどうか
    • 主体(わたし)の意志とは関係がない
    • わたしが無意識であっても,同一の顕名でCMCを継続している場合
    • 他者の目からは,そこにひとつのオンライン人格(アイデンティティ)が存在すると判断される

2-2. CMCにおける「わたし」とは何なのか

  • 1980年代後半からのCMCの歴史
    • 初期CMCとして,わたしたちのコミュニケーションの場であったパソコン通信
    • 1990年台中期から展開され始めた初期のインターネット空間に至るまで 2)
  • CMCの前提:オンライン上のアイデンティティとオフライン上(現実世界)のそれとが連続していること 3)
  • 2000年台中期以降,ブログ(ウェブログ)の流行
  •  Web2.0の登場(ネットのCGM/UGM化)とソーシャルメディアの台頭まで
    • CMCにおける「わたし」=アイデンティティを考えるフレームがいくつか浮かび上る
  1. アイデンティティが主に顕名を通じて形成され,それはオン/オフ双方に連続しつつ区別されるもの(オンライン人格)として存在する
  2. 匿名性のもとに他者とのCMCを継続しているが,そこにアイデンティティは形成されない(徹底した「わたし」の排除
  3. オンラインでは顕名を名乗り,場合により実名を名乗ることもあるが,いずれにせよオフラインでの実名とほぼ確実にリンクしたかたちでCMCを継続するため,アイデンティティにとってオン/オフの区別は意味を持たなくなってくる
  • 上記のフレームに具体的なイメージを割り当てると…
    1. パソコン通信やネット初期の掲示板や「ホームページ」の文化
    2. 「2ちゃんねる」に代表されるような匿名掲示板におけるCMCや集合行動 4)
    3. mixiやFacebook,LINEなどのSNS(ソーシャルメディア)でのCMC
前回からここまでの説明で,CMCにおける「わたし」=アイデンティティのあり方について考えることができました.次の章では,このような「わたし」たちが集合して作り上げる「コミュニティ」について考えていきましょう.

3. CMCにおけるコミュニティ

3-1. 「コミュニティ」とは何か

  • 「コミュニティ」の定義について
    • わたしたちが何らかの関係性にもとづいてコミュニケートする場所
    • コミュニティも,他のもの(他のコミュニティ)と区別されうるようなまとまりが必要
    • このまとまり:社会学では共同性地域性という2つの指標で判断
共同性
同一のコミュニティに所属しているという感覚/所属意識のこと
地域性
自分たちが所属するコミュニティが特定の地域(地域社会)と紐付けられている,という認識
  • CMCにおけるコミュニティのあり方について補助線を引いておく
  • コミュニティの指標のうち…
    • 共同性についてはネット利用者の増大によって
    • ネット・メディアのコモディティ化(日用品化)したため
    • その内容を変化させつつも,共同性そのものは存在する
  • コミュニティの指標:地域性について
    • 実態は少し複雑になる
    • パソコン通信の時代や初期のネット空間
      • 地域性を明確に意識したコミュニティの形成を目指したケースが多くあった
      • この動きは現在のネットでも見受けられるもの
      • 匿名掲示板やブログなどのネット空間では地域性を軽視した,あるいはそれを無視/排除したコミュニティの形成が行われたケースもあった
      • ソーシャルメディアの中には地域性の存在を明らかにアピールするものもある
    • CMCにおいて地域性の存在を一概には否定できない

3-2. オンライン・コミュニティの登場と変容

  • CMCにおけるコミュニティを「オンライン・コミュニティ」と名付ける
  • オンライン・コミュニティは初期のCMC空間であるパソコン通信の登場とともに登場した
  • オンライン・コミュニティを捉えるフレームは以下のようなもの 5)
  1. 相互に共通した関心事を持っている/帰属意識を共有している共同作業を行っている
  2. 1. にかかわるコミュニケーションが展開される空間が必ずしも地域社会とリンクしているとは限らない
  • オンライン・コミュニティ上でのコミュニケーションは当然CMC
    1. CMCにおける共同性の現れ
    2. 地域性の軽視(あるい無視)
  • オンライン・コミュニティのあり方が3-1. での述べた(社会学でいうところの)コミュニティの定義からズレてしまう
  • このズレ(というか混乱)に対してのひとまずの回答は…
    • 電子ネットワーク 6)というメディアのもつ特性
    • (社会学における)コミュニティ概念のゆらぎ
  • これらをふまえ,考えてみる
  • わたしたちのコミュニケーションには一定の広がりやまとまりをもつ物理的空間が必要 7)
  • わたしたちのコミュニケーション空間がある地域性をもったコミュニティとして立ち現れてくる
  • パソコン通信やインターネットといった電子ネットワーク
    • メディアがもつ特性(→第2回の2-2.により物理的空間を必要とせず
    • わたしたちのコミュニケーション空間は電子ネットワークの中に,まさに電子化された形で用意されている 8)
  • 結論:オンライン・コミュニティには地域性が必要ではない 9)
  • (社会学での)コミュニティの定義
    • この定義も実はゆらぎを抱えている
    • コミュニティの定義に関する研究 10)
      • コミュニティの定義が研究(者)によって差異がみられる
      • 全てに共通する要素は個々人の集合である,ということのみ
      • 多くの定義においていわゆる地域性と共同性が要素として共通していた
      • 現代のわたしたちもコミュニティの定義としてこれらの要素を挙げることに
  • オンライン・コミュニティは「コミュニティ」ではないのか,という問い
    • 「当時は確かに「コミュニティ」であった」という回答
    • そもそもコミュニティ自体が共同性のみでも成り立つ
    • オンライン・コミュニティに地域性がみられない場合
      • CMCの空間として他の空間とは区別されうる点において
      • CMC空間に地域性「のようなもの」が存在すると言える
      • オンライン・コミュニティにも共同性および地域性 11)がみられる
    • 結論:(社会学での)「コミュニティ」と呼んで差し支えがない,ということに
  • 現在では違うのか?
  • オンライン・コミュニティは存在しないのか?
  • この疑問については次の3-3. で考える

3-3. コミュニティからクラスタへ

  • 結論:現在のインターネット空間では(Web上では)
    • かつての「オンライン・コミュニティ」は存在せず(少なくとも一般的では)
    • わたしたちがCMCを通じて形成するもの(=コミュニケーションのまとまり)は「クラスタ」
  • クラスタは社会学でも数理社会学や社会ネットワーク論といった研究領域でよく用いられる概念
    • わたしたちの「つながり(関係性)」がネットワークとしてひとまとまりになったもの
    • ネットワークとして可視化(見える化)されたもの
  • 現在のネットでは(かつてのオンライン・コミュニティで見られた)共同性や地域性(ないしは地域性のようなもの)が見当たらない
  • 「つながり」自体はなくなったわけではない
    • 少なくとも共同性は存在しているようだ
    • これは一時的,瞬間的なものであり継続性が低い
    • 継続性が低いためCMCの主体である「わたし」(のアイデンティティ)が見えづらくなっている 12)
  • 結論(1):クラスタのように一時的な「つながり」さえ維持できればよい
    • いつでも「つながり」替える
    • 「つながり」直すこと可能
  • 結論(2)CMCの空間が非常に多様化している
    • 同じ興味・関心にもとづいた「つながり」を同時に持つ
    • 複数のCMC空間で「つながり」をネットワーク化する
  • かつてのオンライン・コミュニティにようにCMC空間としてのまとまりや他と区別することは意味を持たなくなった
  • オンライン・コミュニティから「クラスタ」
    • ネット上のわたしたちのまとまりを的確に表現する言葉(概念)
    • もっぱら使われていくだろう
この「オンライン・コミュニティ」から「クラスタ」へ,というCMC空間の変容については別の回に具体例を多く上げながら再度説明する予定です.

4. まとめ

  1. CMCでは(顕名であっても)継続性を持って名乗ることで,そこにアイデンティティを作り上げることができる
  2. 電子化されたCMC空間であっても「わたし」たちの集合体であるオンライン・コミュニティが形成できる(できていた)
  3. 現在のネットでは「クラスタ」という一時的な「つながり」のまとまりが主流である

参考文献

  • Hillery, G.A.Jr (1955) Definitions of community: Area of agreement. Rural Sociology, 20.
  • 川上善郎・川浦康至・池田謙一・古川良治(1993)『電子ネットワーキングの社会心理』誠信書房
  • ハワード・ラインゴールド(会津泉訳)(1995)『バーチャル・コミュニティ』三田出版会
  • 加藤晴明(2001)「コンピュータ・コミュニケーションのメディア文化」『メディア文化の社会学』福村出版
  • 矢田部圭佑(2012)「私としての私」矢田部・山下玲子編『アイデンティティと社会心理』北樹出版
  • 粉川一郎(2012)「ネット空間の中の私たち」矢田部・山下編『アイデンティティと社会心理』北樹出版
  • 粉川一郎(2013)「ネットコミュニティのプロデュース」中橋雄・松本恭幸編『メディアプロデュースの世界』北樹出版

[注]

  1. 粉川(2012)p.124
  2. 「2ちゃんねる」が登場し,その利用者数を急速に拡大し始めた2000年台初期まで,としておきます.
  3. 粉川(2012)p.125
  4. たとえば「電車男」を想起してみてください.
  5. 古川(1993)p.106-107
  6. 過去のパソコン通信であれ,現在のインターネットであれ,電子化されている情報機器がネットワークで相互に接続されている電子ネットワークである,と言えます.
  7. 例えば公園や広場,会議室やカフェといった場所が想定されるでしょう.さらにそのような場所を複数含むものとして地域社会を想定しても構いません.
  8. 公園やカフェで他者とコミュニケートしなくとも,電子掲示板やWeb上でコミュニケーションを交わし合うことができますよね.
  9. 古川良治によれば,コミュニティにおける地域性の必然性が「現在ほどさまざまなメディアが存在しなかった時期に」求められていた,と述べています(池田ほか 1993, p.109).
  10. ヒラリー(1955)を参照のこと.
  11. 地域性のようなもの,ですから代替的機能を果たしていると言えます.
  12. その最たるものが「2ちゃんねる」でのCMCだと言えます.

コメントを残す