情報人類学(第2回)4月16日


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シラバスに記載の第4回から第6回までの内容を先行してやります.本来第2回および第3回に実施する予定の内容は第7回以降にやる予定です.

1. きょうの目的

きょうの授業では,現代社会を生きるわたしたちにとって最もポピュラーな情報メディアであるインターネットを取り上げ,インターネットがわたしたちの自己のあり方をどう規定するのか,そのことについて考えましょう.

2. 社会におけるメディア・コミュニケーション・アイデンティティ

2-1. コミュニケーションの機能

コミュニケーションは自己のあり方を指し示す「アイデンティティ」をつくりあげ,維持していくために必要なふるまいです. 1)

アイデンティティとは何か.ここでは「ほかから区別されたひとまとまりの自分」が存在する,と説明しておきます. 2)

コミュニケーションは,このアイデンティティを持つ「わたし」と別の「わたし」=他者をつなぎます.コミュニケーションの社会的機能として情報の伝達が重視されがちですが,このわたしたちをつなげる機能も重要なのです.

なぜコミュニケーションの社会的機能として「つながる」ことが大切なのか.それはアイデンティティは他者とつながることでしかつくりあげられないからです.

したがってコミュニケーションの機能とは社会においてわたしたち同士をつなげていき,そしてそれぞれの「わたし」のアイデンティティをつくりあげていくこと,と言えます.

2-2. コミュニケーションの道具=メディア

コミュニケーションには道具が必要です.この道具のことを社会学では「メディア」と呼びます.実はわたしたちは社会の中にあるあらゆるものをメディアとして利用しています.

2-3. アイデンティティを形成するコミュニケーション

具体的にあるメディアを利用し,他者とコミュニケーションを交わすことで,どうやってアイデンティティをつくりあげていくのでしょうか.ここではG. H. ミードの学説を紹介します.ミードの学説を理解するうえで重要なポイントは「役割」です.

3. ネット・メディアによるアイデンティティの形成

ここまでの説明により,メディアの利用を通してわたしたちはアイデンティティをつくりあげることがわかりました.それはメディアを道具として可能になる他者とのコミュニケーションの成果であることもわかりました.

ではインターネットというメディアを利用したコミュニケーションであるCMCを通じて,わたしたちはどのようにアイデンティティを作りあげていくのか.ここではCMCにおける「名乗り」について考えることで,その問題への回答を探していきます.

  • CMCはComputer-Mediated Communicationの略語 3)
  • メディア(media)という言葉は「媒介する」の意味が含まれる

3-1. CMCの機能を考える

CMCをコミュニケーションの面からどういった特徴があるのか,考えてみましょう. 4)

  • 非同時性時間差のコミュニケーション
  • 双方向多方向のコミュニケーション
  • 表現参加共有型のコミュニケーション

さらにCMCをハードウェア面でもその特徴を考えてみます.まずCMCとは電子化された(デジタル化された)文字情報(テキスト)を送り合うことで成り立つコミュニケーションだとしておきます. 5)

  • 電子テキストをタイムラグなく送受信できる
  • 電子テキストを保存したり,蓄積できる
  • 文字情報として再利用できる

ここまでに挙げた特徴をもってCMCを「中間型コミュニケーション」と捉えることができます.「マス」と「パーソナル」の中間に位置づけられる,という意味です.

3-2. CMCにおける「名乗り」の機能を考える

CMCもコミュニケーションである以上,コミュニケーションの送り手や受け手がいます. 6)お互いが名乗ることで受け手や送り手である「わたし」を他の誰でもない存在として区別する/区別されることが可能ですし,またそれはCMCが成立するうえで必要なことなのです.

CMCでの「名乗り」について,3つの基本となる形態があります.

  • 実名(現実世界で通用する名前(氏名))
  • 顕名(いわゆるハンドルネームやニックネーム)
  • 匿名(実名でも顕名でもない「名無しさん」)

そして実際の名乗り方については6つのパターンがあると言われていますが, 7)ここでは重要なものだけを挙げます.

  1. ニックネーム(ハンドルネーム)だが,裏づけのある実名をシステムで把握
  2. ニックネーム(ハンドルネーム)だが,裏づけのない実名をシステムで把握
  3. 名乗らない

1. は(CMCが実際に交わされる)オンライン上でのわたし(のアイデンティティ)とオフライン上のわたしとは非連続の状態だと言えます.2. はオンライン上とオフライン上のわたしは一応の連続性を持ちながらも同一ではない(同一である保証はない)状態だと言えます.3.  オンライン上とオフライン上のわたしが非常に近い関係である(連続してもないし,同一でもない)状態だと言えます.

4. まとめ

  • わたしたちの社会はアイデンティティから成り立っている
  • アイデンティティは他者のかかわり=関係性から作られる
  • ネット・メディアによるコミュニケーションを通じて,わたしたちのアイデンティティはどう作られていくか

参考文献

  • 加藤晴明(2001)「コンピュータ・コミュニケーションのメディア文化」『メディア文化の社会学』福村出版
  • 矢田部圭佑(2012)「私としての私」矢田部・山下玲子編『アイデンティティと社会心理』北樹出版
  • 粉川一郎(2012)「ネット空間の中の私たち」矢田部・山下編『アイデンティティと社会心理』北樹出版
  • 映画『(ハル)』(森田芳光監督,1996年公開)Wikipedia
  • 映画『電車男』(村上正典監督,2005年公開)Wikipedia

[注]

  1. 社会学ではこの「ふるまい」のことを社会的行為と呼びます.
  2. 矢田部(2012)p.3
  3. ComputerにはパソコンやノートPC以外にも,スマートフォンやタブレットなどネットに接続できるあらゆる機器が含まれると考えます.
  4. 加藤(2001)p.102
  5. 現在のネット社会ではウェブやアプリを利用してテキスト以外にも画像や動画,音声をスムーズに,大量に送り合うことができますが,それでもCMCの中心が電子テキストの送受信でることは間違いないでしょう.
  6. この送り手や受け手のことを社会学では「主体」と呼びます.
  7. 粉川(2012)p.120

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