インターネット・コミュニケーション論 第1回(4月8日)


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1. きょうの目的

きょうの授業では,はじめに授業全体について話します.授業の進行(いつどんな話をやるのか)と評価についてはシラバスを参照しながら話します.

評価の対象となるの学期末に提出を求めるレポートと学期中に数回提出を求める小課題です.レポートのテーマは授業で扱うものと関連していれば受講者が自由に設定できます.また小課題をこなしていくことで学期末レポートの完成にも結びついていくようになっています.

今年度の授業では全体を5つのパートに分けて,それぞれのテーマについて解説します.第1回から第3回までコミュニケーションとメディアについて話します. 1)

それではさっそく今回扱う内容に入っていきましょう.

2. テーマ「コミュニケーションとメディア」

この授業は「インターネット・コミュニケーション論」であります.いまのところはコミュニケーションの道具にインターネットを使うこと,というふうに捉えておきます.別の言い方ではインターネットを「メディア」と捉え,このメディアを使ったコミュニケーション,つまりインターネットが媒介するコミュニケーションについて考えることがこの授業全体に通底したテーマであります. 2)

つづいてコミュニケーションとメディアのかかわりについてそれぞれの視点から具体的に考えいきます.少し「インターネット」からは離れてしまいますが,この授業へのとっかかりとしてとても大切な話なのです.

2-1. コミュニケーションとアイデンティティの関係

インターネットというメディアを媒介とするコミュニケーションは,いったい誰と誰の間に交わされるものなのでしょうか.いまは「わたし」「あなた」の間で交わされるコミュニケーション,というふうにしておきます. 3)

この「わたし」のことを社会学では「自己」「自我」と呼んでいます.さらに自己をめぐるアレやコレやを含め「わたし(という自己)」がどうあるのか,その「ありかた」のことを「アイデンティティ」と呼びます.社会学のテキストなどで自己論(自我論)について,C. H. クーリーG. H. ミードの論考を取り上げることが多いのですが,ひとまずこのアイデンティティを創り上げるためには「わたし」ではない別の「わたし」 4)とのコミュニケーションが,何らかのメディアを媒介して起こる必要がある,としておきます.

たとえばクーリーの論考にそっていうと,ヒトがアイデンティティを創り上げて他者とのコミュニケーションを積み重ねることで,あたかも鏡に自分を映し出すようにアイデンティティを創り上げていきますし,ミードの論考にそっていうと,他者との関係をある「役割」にもとづきながらコミュニケートすることでアイデンティティを創り上げていきます.

いずれにせよこの社会の中で「わたし」が存在するためには何かの形でアイデンティティを持つ必要があるわけです.別の言い方をすれば「わたし」が社会において存在する以上(=社会生活を送っている以上)アイデンティティと「わたし」は不可分なものなのです.

社会におけるコミュニケーションとアイデンティティの関係について,ここまでの説明からおぼろげながらその姿が見えてきたのではないでしょうか.わたしたちは一個の自己として,アイデンティティをもつヒトとして他者(別の「わたし」=自己)とコミュニケーションを交わします. 5)わたしたちは何らかの形でアイデンティティを持つ以上(持たざるをえない以上)他者とコミュニケートしなくてはならない存在なのです.

そういう意味では社会学でよく議論される「社会の最小単位とは何か」や「社会を構成するものは何か」といった問いに対する答えはヒトではなくアイデンティティだ,となります.やや冗長な物言いが許されるなら,わたしたちの社会を構成する最も小さな単位は「コミュニケーション」ということになるでしょう.なぜならヒトは(他者と)コミュニケートすることで初めてアイデンティティを創り上げ,じぶん自身を「わたし」として認識できるからです.

2-2. 社会におけるメディアの役割

2-1. ではわたしたちにとってコミュニケーションが「わたしでありづづけること」すなわちアイデンティティの形成・保持に必要不可欠なものであることを示しました.またコミュニケーションには道具として「メディア」が必要であることも示しました.ここではそのメディアについて,これからの授業にとりあえず必要な内容を説明していきます.

まず基本的な考えとしてヒトとヒトをつなぐあらゆるものはメディアである,ということをおさえてください.つまり新しいところではスマートフォンやノートPC,古くからあるものでは新聞やラジオがメディアですし, 6)わたしたちが身に付けている衣服やアクセサリー・化粧だってメディアとなるわけです.また,わたしたちは言葉(書き言葉と読み言葉)というメディアも日々使っています.この授業のタイトルに含まれる「インターネット」もまたそういったメディアのひとつ,なのです.

メディアが違えばコミュニケーションのやり方もまた違ってきます.したがってインターネットというメディアを媒介としたコミュニケーションのありかた・やり方は他のメディアと大きく違う面がある一方で,あまり違わない面もあるでしょう.この授業で扱うメディアであるインターネットは2010年代(テン年代)半ばに至る現在では社会の隅々まで広がっています.わたしたちがインターネットを全く使わずに日常を過ごすことはもはや無理と言っても過言ではないでしょう.

ですからインターネットというメディアはわたしたちの社会を支えるインフラであると同時に,わたしたちのアイデンティティを創り上げるインフラとしても重要な位置を占めるメディアなのだと言えます.そしてインターネットは「わたしでありつづける」ために必要なインフラとなっていますから,わたしたちの社会で起こっている(起こりうるかもしれない)さまざまな出来事やわたしたしたちの人間関係のあり方に対して,それらを考えていく手がかりとしてインターネットを媒介にしたコミュニケーションという要素を無視することはできません.この授業のようにネットコミュニケーションについて学ぶ意義はここにあるのだと思います.

3. 次回のテーマも「コミュニケーションとメディア」

次回の授業では,今回出てきたいくつかの概念や人名などについて,もう少し深い説明をやります.またそれらがどのようにネット・コミュニケーションを考える手がかりへとつながっていくのか徐々に向かっていくつもりです.乞うご期待!

[注]

  1. あくまで予定ですので変更の可能性があります.とはいえなるべくシラバス通りにやるつもりです.
  2. コミュニケーションとメディアのかかわりについて,社会学は「コミュニケーション論」という領域であつかっています.上回生の方ならすでに履修した授業やテキストなどで学んだことがあるやもしれませんね.
  3. 本当はひとりの「わたし」がたくさんの「あなた」たちとコミュニケートしているとも,たくさんの「わたし」たちがそれぞれ相互にコミュニケートしあうとも言えますが,まあそこは少し単純化して考えます.
  4. 「わたし」ではない別の「わたし」すなわち「他者」のことです.
  5. 他者とコミュニケートしないこと,自体もコミュニケーションだと言えますが,そこまで踏み込むと話がややこしくなるのでここでは踏み込ません.
  6. これらのメディアはデジタル/アナログという区別が,またはパーソナル/マスという区別を付けることができますね.