インターネット・コミュニケーション論 第14回(7月15日)


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第10回(6月17日)から数回にわたり,「インターネットとわたしたちの生活」をテーマに話を進めていきます.キーワードはネットと地域社会,ファスト風土化とネット,スマートフォンと「つながりっぱなし」の日常です.

ネットと地域社会/地域コミュニティ

1. 地域メディアとしてのインターネット

  • グローバル(全世界的)な情報ネットワーク
  • 「地域インターネット」という考え方
  • 地域のイメージを構成する手段・道具
  • 地域イメージ・ダイナミクス論(田中美子)

2. 具体例から考えよう

2-1. 山田村の地域情報化の事例研究

  • 富山県の山村(2005年に富山市と合併)
  • 1996年から地域情報化事業を開始

富山県(旧)山田村

富山県図
富山県図
  • 人口:約2,100人
  • 戸数:約450戸
  • 高齢化率:22%(1997年当時)
  • 2005年に富山市と合併
    • 人口:1,662人
    • 戸数:531戸(2012年現在)

2-2. 当時の新聞記事

ふれあい祭(雑誌記事)
ふれあい祭(当時の新聞記事)
ふれあい祭(当時の雑誌記事)
ふれあい祭(当時の雑誌記事)
ふれあい祭(当時の新聞記事)
ふれあい祭(当時の新聞記事)

2-3. 山田村の事例は成功したのか?

  • 富山県内だけでなく首都圏や関西圏からも注目される
  • 地域の枠を超えた人的交流が盛り上がった
  • 村民の地域イメージの変化

2-4. 地域イメージの変化は高く評価できる

  • 田中美子による「地域イメージ・ダイナミクス」論
地域イメージ・ダイナミクス(モデル図)
地域イメージ・ダイナミクス(モデル図)
  • 現在ではNPO法人が農業振興による活性化を模索中
やまだの案山子
やまだの案山子

2-5. 当時の研究成果:「コミュニティの二重性」

コミュニティの二重性(モデル図)
コミュニティの二重性(モデル図)

2-6. 具体例を理解するポイント

  • 地域コミュニティにおける「CMC」観の変容
  • CMCメディア=インターネットの受容の実態
  • 地域コミュニティと仮想的なコミュニティの接合
  • ある地域住民へのインタビュー結果から考察

2-7. 結論:二つのコミュニティの接合

  • 「のりしろ」は地域コミュニティと仮想的なコミュニティを接合する
  • 仮想的なコミュニティは地域コミュニティを相対化するための関係性構築のプラットフォーム
  • 接合後に構築される「仮想的な地域コミュニティ」
  • 地域住民にとって仮想的な地域コミュニティに寄与する活動への「元手」(資本)が「のりしろ」

3. CMCに現れる「地域性」

  • CMCにおける「地域性」とは何か
    • 二つのコミュニティを接合する「のりしろ」
    • 「のりしろ」をどのように構築するのか
    • そこに「地域性」が現れる
  • 地域社会の中でCMCを行うということ
    • 地域活性化を志向した「のりしろ」の構築
    • 山田村の事例:ひとつの成功例

4. インタビュー調査の概要

  • 富山県(旧)山田村での地域情報化事業
    • 詳細は内田(2006a, 2006b, 2006c)
    • 小松・小郷(1998, 1999),山田ほか(2001)を参照
  • インタビュー時期/インフォーマント
    • 調査時期は1998年9月,2002年3月,2007年3月の3回
    • 毎調査ごとに7ないし9名のインフォーマントを対象
    • 複数の同じインフォーマントに対して継続的に実施
    • 同時に地域行事への参与観察も実施

4-1. インフォーマント:KTさん

  • 旧山田村(2005年4月に富山市と合併)の住民のひとり
  • 男性・50歳代前半(1998年調査当時)
  • 村内にて自営業(食料品店)を経営
  • 村外での就業経験あり
  • 地域情報化事業の中心的担い手のひとりでもある

4-2. インタビューからわかること

  • インフォーマントにおける「CMC」観の変容
  • 1998年調査:地域活性化に必要な関係性を構築するCMC
  • 2002年調査:地域間格差の象徴としてのCMC/CMCの力を再確認
  • 2007年調査:関係性を維持・拡大するCMC

4-3. 1998年調査 CMCとの出会い

  • PCとインターネットの導入について

世界の最新の情報が,自分のところで必要に応じて…それで村おこしをやりたいんだっていう,そういう話に感化されたというか.

  • 初めてCMCを経験した驚き/喜び

電子メールを始めて一番最初に驚いたのは,誰か一人から不特定多数の人に同時にメールを送れるっていう.(中略)それに関して,こんな素晴らしいものはないなと.

4-4. 1998年調査 関係性構築とCMC(1)

  • オンラインでの関係性の構築

(注:村おこしイベントの)「ふれあい祭」のことでワイワイ言うようになってからは電子メールを開いて読んで返事して,っていうところに時間を費やすっていうか.

  • オンラインの関係性がオフラインへ転化

(注:村内外の住民が参加するメーリングリストの)「MLやまだ」の場合だったら,しょっちゅう皆さんと実際の交流ができてるんよ.(中略)肌と肌のつきあいがひとつのメーリングリストを通して集まっている,というところが楽しいじゃないですか.

4-5. 1998年調査 関係性構築とCMC(2)

  • オフラインでの関係性の構築

自分なりに早くから(注:コンピュータとインターネットを)入れ始めたぶんだったので,ある程度他の村内の皆さんにアドバイスができるという(中略)普段顔と名前はわかっていても話す機会がない人びとと新しいつきあいがはじまったというか.

  • オフラインでの関係性の強化

橋渡しはパソコンなんだけど,実はパソコンの話だけでおわんなくて,世間話とかなんとか,いろんな話が出てきて,結局中身が濃くなるというか,会話の中身が濃くなるというか.これ自身もパソコンが配られなければありえなかったことで.

4-6. 1998年調査 関係性構築とCMC(3)

  • オン/オフでの関係性がもたらすもの

交流こそが地域おこしである,活性化に欠かすことができない重要な仕掛けだということをさとった.(中略)(注:村外の住民は)全く自分が想像もしないような話を持ち出してきてくれる. (注:村民と異なり)外の人と話すと全く違う見方があるとか,そういう新しい世界を見て自分も考え直すとか,自分の村を見つめ直すということが,一番その…大事なんじゃないかな.

(注:オン/オフでの関係性から得られたものは何かという問いに対して) 「MLやまだ」とか(注:別のメーリングリストである) 「山田村ネットワーク」とかでワイワイやって交流して,豊かで住みやすい山田村にするための知恵というかヒントを皆さんから頂ければ,それが一番楽しい.

4-7. 2002年調査 地域間格差とCMC(1)

  • 社会のIT化に遅れる山田村

CATV(注:CATVインターネットのこと)なんかもう,山田村が情報センターが始まって一年くらい後には,もうすでに八尾(注:山田村に隣接する自治体)に入ってましたもの.そのとき山田村の要するにISDNの5倍くらいの速さで.

  • 専門家・人材の不在

(注:県庁内部において)専門家がいないっていう.はっきりしたその道しるべをつけてくれるような専門家がいないもんで,前進もうにも進みにくいっていうか.県のその係がそうだから,村の例えば議会とかだったらなおさらまったく光ファイバーも「ひ」の字もわからんという状況だから.

4-8. 2002年調査 地域間格差とCMC(2)

  • 地域情報化事業の牽引者としての不満

基本的に俺ね,すごく欲求不満なところがあるのは,要はその,行政っていうか,村づくりを進める上で,そのインターネットをもっともっと活用して欲しいなっていう,欲求不満があるね.

  • CMCのもつ力を実感しているがゆえの感情

せっかくこれだけの情報機器をさ,あれしたんなら(注:村に導入したのなら)使わないかなっていう素朴な欲求不満があるんだよね.

4-9. 2002年調査 CMCのもつ力(1)

  • 先駆者としての自覚

もうこういう時代のさきがけに,すでにそういう機能を自分で,そういう道具を手に入れられたっていうのは,これは自分にとってはすごくラッキーだったな(中略)なんか自分もやらなきゃいかんけど,どうすればできるのかなとか,今頃きっとねイジイジしてたと思うよ.

  • 社会の動きに追従できているという感覚

(注:社会のIT化に対して)ギャップは感じないと思う.スムーズにその波にのっかっていけたっていうこと.

4-10. 2002年調査 CMCのもつ力(2)

  • CMCがもたらしたものの再確認

これが(注:インターネットが)できたおかげで,こんなできたおかげで,付き合う人も全く広がったし.(中略)特に言えるのはね,村以外の人との交際範囲がすごく増えた.(中略)みんなそうだと思うね.で,片やこれが未だにできない人は旧態依然と言えばいいか,ずーっと今までと同じような生活しか,生活パターンしかないと思う.(中略)それだけ要するに世間が広がったっていうことでないかな.

4-11. 2007年調査 地域活性化とCMC

  • CMCが形成した関係性に基づく地域活性化へ

(注:情報ボランティアとして交流してきた)学生さんたちと付き合うときにはいつも過疎のことを考えていて,考えながら話をしたり聞いたり,過疎の対策に活用するっていうか(中略)何かを生かせないかっていつも考えながらつきあっていたところがあるわけなの.

  • 具体的な活動例:青空市場

(注:青空市場を支える産直組織は)17〜8人が会員となって共同でやってて,そのほとんどは「ふれあい祭」でいろんなことを勉強した,させられたっていうかさ.

4-12. 2007年調査 関係性維持・拡大とCMC

  • すでに構築した関係性の維持を志向する感情

(注:過去に盛んに交流したが,現在は交流ないAさんについて)そういう人は,また仲間っていうところがあるから,その時に印象は覚えているからお互いの共通の気持ちの通う仲間だなっていうことはあるから,それだけあれば.

  • 構築した関係性は再活性化可能だという感情

かつての仲間というのは,当然理解をしてくれているはずだから,で,俺が言っていることは,皆も気持ちの上で理解者だから,当然何かの時には私も参加します,オイラも参加するよって感じで集まってくれるんだろうなと.

5. 考察

  • CMCに対する感覚:時系列での変化
    • 要因1:本人の語りそのものの変化
    • 要因2:社会全体のIT化という変化
    • 要因3:村内の情報環境の変化
  • 約10年にわたる調査期間の中でインフォーマントにとって一貫している事柄はなにか?

5-1. <コミュニティの二重性>と「のりしろ」

地域コミュニティ = 山⽥村



二つを接合する「のりしろ



仮想的なコミュニティ = CMCコミュニティ

5-2. 「のりしろ」とは何か(1)

  • CMCにより構築された関係性
    • 山田村 = 地域コミュニティの内外を巻き込んだ形
    • オンラインとオフラインのバランス
      • 電脳村ふれあい祭(地域活性化を目指した地域行事)
      • こうりゃく隊(地域行事のサポート・グループ)
      • ふれあい農園(近隣地域住民との交流)
  • この時期(1997年から2002年)に構築された関係性がその後の地域活性化への「元手」となった

5-3. 「のりしろ」とは何か(2)

  • インフォーマント(KTさん)にとっての「のりしろ」
    • 「私」と地域コミュニティを接合するもの
    • ただし身体をもったリアルな「私」は地域コミュニティに存在
  • 「私」(インフォーマントのKTさん)が理想とする(=「こうあって欲しいと思う」)山田村
  • 仮想的な地域コミュニティとしての「山田村」
  • 村民全てが共有せず,CMCにより形成されたという意味で「仮想的

参考文献

  1. 池田謙一・柴内康文,1997,「カスタマイズ・メディアと情報の『爆発』—電子ネットワークの外部条件」池田謙一編『ネットワーキング・コミュニティ』東京大学出版会,26-51.
  2. 内田啓太郎,2006a,「インターネットがもつ地域メディアとしての可能性—<コミュニティの二重性>と地域性からの考察」『北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)』56(2): 1-11.
  3. 内田啓太郎,2006b,「インターネットはどのようなメディアなのか—主に地域メディア論からのアプローチにもとづく一試論」『北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)』57(1): 1-10.
  4. 内田啓太郎,2006c,「地域コミュニティとCMCコミュニティの接合をめぐる考察—富山県山田村における地域情報化事業の事例から」第79回日本社会学会大会(於立命館大学)報告原稿.
  5. 岡林哲夫,1996,「山田村(富山県)の情報化について」(http://web.archive.org/web/20050205035830/www.midori.com/yamada/yamada_1.html, 最終閲覧日 2009.6.30)
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    (http://web.archive.org/web/20050212081252/www.midori.com/yamada/yamada_2.html, 最終閲覧日 2009.6.30)
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  8. 加藤晴明,1992,「パソコン通信をめぐる検証課題」『中京大学社会学部紀要』7(2): 151-77.
  9. 川上善郎,2001,「ウェブコミュニケーションのもたらすもの」東京大学社会情報研究所編『日本人の情報行動2000』東京大学出版会,249-70.
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  12. 小松裕子・小郷直言,1998,「山田村が抱える情報化3年目の現状と課題」日本社会情報学会関西支部研究会(於大阪大学)報告原稿.
  13. 小松裕子・小郷直言,1999,「メーリングリストから見た山田村」『高岡短期大学紀要』13: 17-34.
  14. 竹内郁郎,1989,「地域メディアの社会理論」竹内郁郎・田村紀雄編『【新版】地域メディア』日本評論社,3-16.
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  16. 成田康昭,1992,「メディア経験とコミュニケーション—パソコン通信ネットにおけるコミュニケーション満足(I)」『中京大学社会学部紀要』7(2): 179-228.
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  22. 船津衛,1999,「地域情報の社会心理」船津衛編『地域情報と社会心理』北樹出版,11-29.
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