「情報社会学」2015年度秋学期


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授業に関する情報はこのページに掲載します.

第1回(9月24日)オリエンテーション

授業目的

  1. この講義の目的は現代社会でのさまざまな事象(できごと)に対して社会学の立場から 「情報」「メディア」「コミュニケーション」の視点を通じて理解できる力を習得することです.
  2. 先に示した1.の目的を達成するために情報社会学と関連領域(メディア論,コミュニケーション論,理論社会学,文化社会学など)における基本概念(専門用語・学術語)や言説(すでにある研究成果)を解説します.

授業ではこれらの理解をスムーズにするために出来る限り最新の事象を取り上げてケーススタディを行います.

到達目標

  1. 現代社会のさまざまな事象を情報社会学の視点から専門用語や言説をふまえて学習し理解できる.
  2. 先に示した1.の目的を確認するため適切なかたちで学習成果のアウトプットができる.

授業計画

今年度の授業では全体を5つのパートに分けて,それぞれのテーマについて解説します.目安となるキーワードも示していますが具体的な内容は各パートの最初に紹介します.

第1回から第3回 テーマ:社会学の立場から「情報」のあり方を考える
キーワード:情報社会論,情報文明論 etc.
第4回から第6回 テーマ:社会の中でのコミュニケーションとメディアの関係を考える
キーワード:活字メディアと電子メディア,グローバル・ヴィレッジ,メディア環境 etc.
第7回から第9回 テーマ:情報と都市・地域社会の関係を考える
キーワード:インターネット,メディアとしての都市,地域情報化 etc.
第10回から第12回 テーマ:情報と生活・文化の関係を考える
キーワード:総表現社会,モバイル・コミュニケーション,ウェアラブル・コンピューティング etc.
第13回から第14回 テーマ:結局,社会の中で「情報」とは何のか
キーワード:情報,メディア,コミュニケーション etc.

成績評価

  • 定期試験に変わるレポートが「80%
  • 小課題(複数回)が「20%

第2回(10月1日)情報社会論の歴史―社会学の立場から「情報」のあり方を考える

1.欧米の情報社会論

今回と次回(10月8日)の授業では欧米および日本の情報社会論について概説します.今回は欧米編です.

2.工業社会からの大転換

  • 未来像としての脱工業社会論
  • 情報社会論からデジタルネットワーク社会論へ

3.脱工業社会論の登場

  • 脱工業社会(post-industrial society)の到来
  • ダニエル・ベルやアルヴィン・トフラー(ともに米),アラン・トゥレーヌ(仏)らにより提唱
  • 1960〜70年代からの未来予測

4.脱工業社会(post-industrial society)としての情報社会論

D.ベル『脱工業社会の到来』(1973)

  • サービス経済への転換
  • 専門職/技術職が増大
  • 企業におけるR&Dの最重視
  • 知識/知的技術の台頭

アルヴィン・トフラー『第三の波』(1980)

  • 文明の発展:3つの「波」=社会変革
  • 文明論的な情報社会論

トフラーの先見性:三つの「波」

  • 第一の波=農業社会
  • 第二の波=工業社会
  • 第三の波=現代社会

第一の波

  • 農耕革命(の時代)
  • 生産者+消費者=プロシューマーの登場

第二の波

  • 工業社会の時代(産業革命後の世界)
    • 大量生産・大量消費経済(生産と消費の分離)
    • 大家族から核家族へ
    • 社会の分業化,都市化,中央集権化

第三の波

  • エレクトロニクス革命による情報化の時代
  • 新しい生活様式の誕生
    • 在宅勤務,エレクトロニクス・コテージ,etc.
  • プロシューマー(生産=消費者)の再登場

脱工業社会論の特徴

  • ベル,トフラーとも社会の「進化史観」に立脚
  • 工業社会の基本構造は維持しつつ発展という図式
  • 未来論として捉えるべき 

5.ネットワーク社会としての情報社会

  • コンピュータ+通信回線=「ネットワーク社会」「情報ネットワーク社会」
  • 日米における1980年代以降の主流
  • 「高度情報社会」→ 情報のネットワーク化を前提

「ネットワーキング」の提唱

  • J.リップナック・J.スタンプス『ネットワーキング』(1982)
  • ネットワーク論の先駆的位置づけ
  • ネットワークの特徴
    • 分権化
    • 関係の多様性
    • 結節点やリンクとして機能する個人
    • ネットワーク内における価値観の共有

ネットワーク社会論あれこれ

  • A.ブレッサン『ネットワールド』(1990)
  • M.カステル『情報時代:経済,社会,文化』(1996-98)
  • G.ギルダー『未来の覇者』(1992) 『テレビの消える日』(1993)『テレコズム』(2001)

A.ブレッサン『ネットワールド』

  • 政治・経済の側面を重視
  • 企業のネットワーク化
    • 多様な形態
  • ネットワークの特徴(組織形態)
    • 個別に特化された関係を効率的統合的管理
    • 共有資源から受け取る個々の報酬

ネットワーキングによる影響

  • 権力・権威の重要性低下
    • 誤解,ありえず
  • 権力の本質が変容

M.カステル『情報時代:経済,社会,文化』

  • 情報通信技術は産業革命に匹敵する変化
  • 経済のグローバル化
    • 全世界規模の企業ネットワーク
    • 農業・製造業の雇用減少
    • サービス業効用の多様化
  • 生産性向上
    • 収益性・競争力の重視

情報通信技術による変化

  • マス・メディア/マス・オーディエンスの終焉
    • マルチメディア化
    • 細分化されたオーディエンス
    • オーディエンス間の相互的コミュニケーション

カステルの議論の特徴(1)

  • カステルの議論の特徴
    • 空間論および時間論に特徴
  • ネットワーク社会
    • 空間による時間の組織化
    • 「流れ:Flow」の空間が三層構造をとり社会生活を支配
      • 第一層:電子回路
      • 第二層:ノードやハブ
      • 第三層:エリートの空間組織

カステルの議論の特徴(2)

  • ネットワーク企業による24時間体制の生産・流通
    • 時間の無意味化
  • ネットワーク社会による伝統的な時間のリズムの破壊
  • ネットワーク社会の「仮想時間」
    • 「同時性」と「非時間性:timelessness」

カステルの議論の特徴(3)

  • ネットワーク社会における社会変化
    • アイデンティティ構築が主題
  • 反グローバル化/グローバル化による国家の衰退
  • 「情報的政治」
    • スキャンダリズム
    • 民主主義の新たな危機
  • カステルの議論
    • ネットワーク社会の幅広い事象を扱う

G.ギルダー『未来の覇者』(1992) 『テレビの消える日』(1993)『テレコズム』(2001)

  • 技術革新の主役が移行
  • コンピュータ/放送から通信ネットワークへ
  • 未来像の提示

6.情報社会論の拡散

  • 80年代以降:情報化の側面を多様に議論
  • 情報社会論的な考え方が多くの分野へ拡散
    • 政治学:メディア/インターネットの役割
    • 経済学:企業の情報投資,情報ネットワーク化による国際分業化,IT産業
    • 社会学/文化研究:情報メディアの進展を主軸にした研究
  • あくまでネットワーク社会論を基礎にする

情報社会論の拡散

  • 1990年代以降現在に至る
  • 情報化の進展
    • コンピュータ技術の発展,社会への普及
    • 地球規模でのネットワーク化
  • 楽観論,サイバースペース論,監視社会論,etc.

情報社会論の拡散:楽観論

N. ネグロポンテ『ビーング・デジタル』(1995)

  • 情報のデジタル化
    • アトム(物質)からビット(情報)へ
  • 「デジタル・ライフ」
  • 情報化による地理的限界の解消
    • どこでも仕事/コミュニケーション
  • 時間:非同期コミュニケーション(例:eメール)
    • 「オン・デマンド(on demand)」で多様なサービス享受
  • IT家電の普及
  • 表現のためのコスト低下
    • 仕事と遊びの「中間地帯」
    • 趣味の活動範囲の拡大
  • ネグロポンテの議論
    • かつての情報文明論に技術的裏付け付加
    • ベル,トフラーとの類似性

MITメディア・ラボの研究者たち

  • MIT(マサチューセッツ工科大学)
  • メディア・ラボ
    • 新しいメディア,情報技術の研究開発
  • 基本的にきわめて楽観的

情報社会論の拡散:サイバースペース論

  • コンピュータ・ネットワーク上に「サイバースペース」形成
  • サイバースペース=仮想空間
    • W.ギブスン『ニューロマンサー』
    • サイバーパンク小説
  • サイバースペースとしての共同体/社会の形成

P.レヴィ『集合的知性』(1994)

  • サイバースペース=第四の人類学的空間
    • 地球,政治的領土,商業空間
  • サイバースペース上で知性が自律的に融合
    • 「集合的知性」
  • 楽観的な主張

S. タークル『接続された心』(1998)

  • 原題:Life on the Screen (1995)
  • インターネット上のMUDを研究対象
    • MUD=Multi User Dungeon
  • オンライン上では自己を自由に演出可能
  • サイバースペースではアイデンティティの一貫性が喪失
    • 自己の拡散の危険性

情報社会論の拡散:監視社会論

  • 情報化の「負の面」を強調
  • 情報メディアの進展
    • 権力による情報の独占,収拾,監視

D.ライアン『新・情報化社会論』(1990)

  • 技術決定論としての情報社会論批判
  • 技術に対して人間・社会が影響を及ぼす
    • 技術に人間が従属せず
    • D.ベルらへの批判
  • 国家による情報の一元管理
    • 「パノプティコン」(M.フーコー)

D.ライアン『電子の眼』(1995)

  • 近代の初めから「監視社会」化
  • 民主主義的配慮から生じる監視
  • 三つのP
    • 市民参加(Participation)
    • 個性(Personhood)
    • 監視目的(Purpose)
  • 市民の側からの管理を志向

D.ライアン『監視社会』(2001)

  • 情報メディアによる監視=近代の特徴
  • 監視の性質=管理と保護の両義的
  • 監視社会:「生身の人間」の重要性

第3回(10月8日)情報社会論の歴史(続)―社会学の立場から「情報」のあり方を考える

1.日本の情報社会論

前回(10月1日)と今回(10月8日)の授業では欧米および日本の情報社会論について概説します.今回は日本編です.

2.日本の情報社会論の始まり

  • 梅棹忠夫「情報産業論」(1963)
  • 梅棹による情報の定義
    • 人々の間で伝達される全ての記号の系列
  • 情報産業をマス・コミのみならず幅広く捉える
  • 情報産業は「虚業」

3.文明の三段階の発展

  • 農業から工業へ,工業から情報産業の時代へ
  • 農業:消化器中心=「内胚葉産業」
  • 工業:手足の代行=「中胚葉産業」
  • 情報:脳神経系・感覚器官中心=「外胚葉産業」
  • 「労働」と「資本」を基本とする経済学は工業社会の時代にしか対応できず?

4.「お布施」の理論:情報の価値について

  • 梅棹論文における重要概念
  • 情報価値=お坊さんの「お布施」と同じ
  • 情報を発信する人間の「格」により決定

5.林雄二郎『情報化社会』(1969)

  • 1960年代日本を代表する著作
  • 社会の情報化:実用的機能<情報的機能
    • 情報的機能:本来の機能とは直接関係ない付随的機能
    • サービス分野でも「機能的」サービスより「情報的」サービスの重視
  • 林の情報社会論
    • 商品やサービスを実用的機能と情報的機能に区別
    • 情報的機能に高い価値を置く社会が情報化社会

6.増田米二『原典:情報社会』(1985)

  • 増田:60年代から情報社会を論じたパイオニア
    • モノ:人間の生理的欲求を充足
    • 情報:目的達成の欲求を充足
  • 情報社会:モノ・エネルギー・サービス中心の産業構造から情報中心の産業構造への変革
    • 情報産業,知識産業,情緒産業,倫理産業の発展
  • 情報社会:情報産業中心の社会ではない

7.「情報ユーティリティ」のある社会

  • 情報社会の中心は情報産業ではない
  • 情報ユーティリティ(情報市民公社)の設立を構想
    • 必要な情報が「いつでも」「誰でも」「どこでも」安価に迅速に入手可能
    • コンピュータ+通信ネットワークによる公共的情報処理サービス
  • 情報ユーティリティを情報基盤とした理想的社会を構想

8.加藤秀俊「情報社会の文明史的展望」(1969)

  • 商品における「物質的価値」と「情報的価値」
    • 後者の重要性が増大(林と同様の主張)
  • 現在は情報氾濫の時代
    • 「仕事とレジャーの境界があいまいになる」
    • 「情報があふれる中で真の自我実現のために役立つ情報をいかに選びとるかが問題」

9.「未来学」としての情報社会論

  • 未来学:未来について展望:提案を行う学問
    • 1960年代後半より進展
    • 日本未来学会設立(1968)
  • 未来学者たち
    • 日本:香山健一,増田米二,林雄二郎
    • 欧米:ダニエル・ベル
  • 未来学者:社会の未来像を情報社会や脱工業社会と重ね合わせ
    • 未来学と情報社会論の重なりも顕著

10.香山健一「情報社会論序説」(1968)

  • 情報社会:「産業社会の一定の発展と成熟の基盤」とし「情報革命を媒介に」した「産業社会の次の段階の社会」
  • 「物質やエネルギーを中心とした時期区分,段階区分」と違い「情報現象への着目」と「情報革命」がこの社会の特徴
  • 未来学批判:「外挿法」にもとづく将来予測
    • 現在までのトレンドの延長に過ぎない

11.ニューメディア論から高度情報社会論へ(80年代の情報社会論 1)

  • 1970年代:政府による情報化政策・構想の発表,組織作り開始
  • 1960年代末以降:「有線都市」構想
    • CATVによる町づくり構想:「地域情報化」の先駆け
    • 旧通産省「東生駒Hi-OVIS」構想
    • 旧郵政省「多摩CCIS」構想

12.ニューメディア論の登場

  • 1970年代:情報社会論は下火に
    • 1973,1979年の石油ショック
  • 1970年代末から80年代:「ニューメディア」の登場
    • ニューメディア:明確な定義なし
    • 有線テレビ,ファクシミリ,衛星放送,家庭用ビデオ,ワープロ,etc.

13.高度情報社会論の登場

  • 1980年代初頭:コンピュータのオンライン化(ネットワーク化)の推進
    • 「高度情報社会」の登場
  • 高度情報化に関する中央省庁の報告書
    • 「地域情報化政策」の誕生(構想から政策へ)
  • 政府報告書:80年代高度情報化段階における特徴
    • 近代合理主義の超克,競争重視,情報の質の高度化・多様化・自由化

14.1980年代の地域情報化政策

  • 地域社会に情報メディア・情報システムの導入
    • 地域の活性化・利便性向上を企図
  • 地域情報化政策の目的(『通信白書』による整理)
    1. 地域情報の地域外への発信
    2. 防災対策
    3. 行政広報
    4. 保健医療・福祉体制の強化
    5. 行政サービスの向上
    6. 地域産業の活性化

15.1983年「地域情報化元年」

  • 旧郵政省「テレトピア」構想
  • 旧通産省「ニューメディア・コミュニティ」構想
  • 中央省庁によるモデル地域指定政策
  • 1980年代以降:各省庁による政策構想の発表続く

16.ネットワーク社会論と自閉社会論(80年代の情報社会論 2)

  • 1980年代以降:日本における「ネットワーク社会」の議論開始
    • リップナック&スタンプス『ネットワーキング』(1982)
  • 今井賢一『情報ネットワーク社会』(1984)
  • 情報ネットワーク社会:ネットワーク型組織により編成
  • 創発型ネットワークを重視
  • 社会インフラ:情報通信系
  • 社会インフラの上に形成される
    • 産業・企業:ネットワーク型組織
    • 情報空間・都市空間での生活行動:ネットワーク型

17.自閉社会論:ネットワーク社会論の対極

  • 自閉社会論の共通認識
    • コンピュータ・ネットワーク上でのコミュニケーションの深化
    • (従来型の)人間関係を希薄化させる恐れ
  • 小此木啓吾『一・五の時代』(1987)
    • 人間の二者関係:「一対一」
    • 人間と「擬人化された機械」の関係:「一・五の関係」
    • 機械との関係:自立感覚と全能感の充足,人間的配慮は不要
    • 人間同士の関係において対機械のように振る舞う恐れ

18.悲観的な「自閉化」現象の議論

  • 中村文夫『子供部屋の孤独:テレビゲーム第一世代のゆくえ』(1989)
    • TVゲームなどの家庭への浸透
    • 情報化されたネットワーク社会:「人はひとりひとりに解体され,ゲームのように競争する」
    • 他者とつながらず「ひとり」の人間として端末のようにつながっているだけ
    • 「ひとり化」をキーワードに現実を悲観的に議論

19.非「悲観論」として自閉社会を議論

  • 奥野卓司『パソコン少年のコスモロジー』(1990)
    • 若者が電子メディアにより孤立化:「マユ」
    • 「このマユには,もはや社会はない.多数のマユが集まっても,それはマユの社会ではなく,それぞれ個別のマユの環境世界である.そしてひとつひとつのマユは,ただふわふわと浮遊しているだけだ」
    • 以前の機械化されていないコミュニケーションへの懐古はうかがえず

20.「日本型」の情報社会論

  • 1980年代:日本を特殊とする情報社会論の登場
  • 濱口恵俊『日本人にとって高度情報文明とは』(1986)
    • 日本人:個人主義ではなく「間人主義」:人間関係重視
    • 間人主義がなじみやすい高度情報社会
    • Information:即物的意味しかもたず
    • 「情報」には「こころ」が含まれる:高度情報社会における情報の理想像

21.90年代以降の情報社会論:「IT革命論」と失われた10年

  • 1990年代日本:バブル経済崩壊後の停滞期
    • 「失われた10年」
  • 1990年代中盤:「マルチメディア」「インターネット」「IT革命」
  • 日本の情報化:アジアを含む諸外国より遅れる
    • IDC(世界的調査会社)による調査:2001年版「情報社会指標」
      • 日本11位:1位スウェーデン,2位ノルウェー,3位フィンランド,4位アメリカ,5位デンマーク

22.IT革命と「ニューエコノミー」

  • 1990年代米国の経済(景気)拡大:「ニューエコノミー」
    • IT革命による生産性向上
    • 米商務省『デジタル・エコノミー』
  • 中谷巌ら経済学者の主張
    • ネットによる取引費用のダウン,仲介業者・商社などの「中抜き」拡大
  • IT革命による経済成長批判
    • 「雇用なき成長」:経済成長と失業率上昇
  • 1990年代末以降日本の情報社会論:悲観的論調,「ITバブル」の崩壊

23.1990年代前半の情報社会論

  • 逢沢明『転換期の情報社会』(1992)
    • 現在は工業社会から情報社会への転換期
    • 工業時代の人間像:ホモ・ファーベル(制作する人)
    • 情報社会の人間像:ホモ・イマギナンス(想像する人)
    • 客観的科学に欠落:価値・目的・感性を重視する文化
    • 科学技術至上主義:「等身大の人間」への価値移動

24.公文俊平『情報社会論』(1994)

  • 文明論的に日本の「ネットワーク社会」を議論
    • 文明・文化・主体・システムの再定義
    • ネットワーク組織による説得・誘導による「智のゲーム」
    • 日本社会の「閉鎖性」を情報化により開放
      • 日本近代社会の特徴:三層構造
      • 間柄主義:「間人」が構成する基層
      • 「イエ型組織」により構成されている中層
      • 多種多様なネットワーク(「ムラ」)が重層的に重なり合う表層

25.1990年代中期:マルチメディア・ブームの到来

  • 情報のデジタル化
    • 文字・音声・画像などの情報をデジタル化により一元化
  • マルチメディア:双方向メディア
  • 西垣通『マルチメディア』(1994)
    • マルチメディアによる人間の感性の変容
    • マルチメディアを利用し「重層的で非均質的な意味の空間,新たなコスモロジー」の構築

26.森谷正規『アメリカと違う日本のIT革命』(2000)

  • 日本の情報化は家庭生活中心:米国の後追いを批判
  • 国際社会における日本の情報発信能力が問われる
  • 『IT革命の虚妄』(2001)
    • IT革命自体が永続しない
    • IT革命は産業革命に匹敵するものではない

 

27.伊丹敬之・伊丹研究室『情報化はなぜ遅れたか』(2001)

  • 日本企業の情報化が遅れた原因
  • コスト格差:PCの値段(日本語の壁)
  • メリット格差
    • 情報機器利用のメリットが少ない
    • 組織の情報効率が高い(組織の壁)
    • 初期利用者が少ないためネットワーク外部性が働かず(外部性の壁)
  • 技術格差:米国は軍事予算をITへ投入(軍事の壁)
  • ベンチャービジネスを育成する土壌無し(ベンチャーの壁)

28.坂村健『21世紀日本の情報戦略』(2002)

  • 日本の情報化の道筋を提示
  • 日本経済は情報化による変化を必要
    • 米国の情報化を真似るべきではない
    • 真似た企業は1990年代に低迷
  • 「日本のオリジナリティ」(日本人には不得意)を追求すべき
  • 国家戦略として情報化を考えるべき

29.まとめ

  • 日本の情報社会論の特徴とは何か
  • 日本の情報社会論
    • 欧米の情報社会論においてほぼ引用・参照されず
    • 「言葉の壁」が直接的な原因
    • 日本の情報社会論が劣っているわけではない
    • 「情報社会」は日本から「輸出」された概念

30.政府主導の情報社会論

  • 官庁(旧郵政省,通産省など)が情報化をリード
    • 報告書が多数出版される
    • 功罪両面あり
      • 補助金目当て
      • 地域の実態を無視した政策立案

31.「日本」を全面に出している情報社会論

  • 時代の経済情勢などの影響を大きく受ける
    • 経済好調:日本文化を称揚する情報社会論
    • 経済低調:米国追従・グローバルスタンダード
    • 時流に乗っただけの情報社会論は淘汰される

32.新しいメディアと情報社会論

  • 新たなメディアの登場:それを援用した形の情報社会論が登場
    • ニューメディア,マルチメディア,インターネット,etc.
  • サイバースペースの拡大
    • 電子空間に社会の縮図(または社会そのもの)を見る研究
    • 「ユビキタス・コンピューティング」(どこでも・いつでも)

33.情報社会論は「科学」なのか

  • 情報社会論は「科学」と言い難い
    • 社会評論・予言・提言ではないか
  • 情報社会を直接観察し,研究対象とする
    • 困難である場合も,情報社会において情報自体が現実の一部を構成
  • 情報社会論自体の分析
    • 情報社会を研究することに
  • 情報社会研究の課題
    • 情報社会論を鵜呑みにせず,その理論を再確認,批判的検討が必要

第4回(10月15日)メディアとは何か―社会におけるメディアとコミュニケーションの関係

今回と次回(10月22日)はスライドを利用します.下の画像をクリックするとスライド(PDF版)の全頁が表示されます.

情報社会学(第4回)表紙

第5回(10月22日)メディアの時代・メディアの理論―社会におけるメディアとコミュニケーションの関係

前回(10月15日)と今回はスライドを利用します.下の画像をクリックするとスライド(PDF版)の全頁が表示されます.

情報社会学(第5回/2015年10月22日)「メディアの時代・メディアの理論―社会におけるメディアとコミュニケーションの関係」

1回目の小課題を出します.詳しい内容についてはブログ記事「【KG情報社会学】1回目の小課題」を読んでください.

第6回(10月29日)マス・コミュニケーションの論理の展開とその限界―社会におけるメディアとコミュニケーションの関係

前々回(10月15日),前回(10月22日)と今回はスライドを利用します.下の画像をクリックするとスライド(PDF版)の全頁が表示されます.

情報社会学(第6回)表紙

第7回(11月5日)ケータイが変える都市の風景―情報と都市・地域社会の関係を考える

情報社会学(第7回)表紙

第8回(11月12日)インターネットと地域社会/地域コミュニティ―情報と都市・地域社会の関係を考える

今回はスライドではなく,ブログ記事の体裁で資料を提示します.


1. 地域メディアとしてのインターネット

  • グローバル(全世界的)な情報ネットワーク
  • 「地域インターネット」という考え方
  • 地域のイメージを構成する手段・道具
  • 地域イメージ・ダイナミクス論(田中美子)

2. 具体例から考えよう

2-1. 山田村の地域情報化の事例研究

  • 富山県の山村(2005年に富山市と合併)
  • 1996年から地域情報化事業を開始

富山県(旧)山田村

富山県図
富山県図
  • 人口:約2,100人
  • 戸数:約450戸
  • 高齢化率:22%(1997年当時)
  • 2005年に富山市と合併
    • 人口:1,662人
    • 戸数:531戸(2012年現在)

2-2. 当時の新聞記事

ふれあい祭(雑誌記事)
ふれあい祭(当時の新聞記事)
ふれあい祭(当時の雑誌記事)
ふれあい祭(当時の雑誌記事)
ふれあい祭(当時の新聞記事)
ふれあい祭(当時の新聞記事)

2-3. 山田村の事例は成功したのか?

  • 富山県内だけでなく首都圏や関西圏からも注目される
  • 地域の枠を超えた人的交流が盛り上がった
  • 村民の地域イメージの変化

2-4. 地域イメージの変化は高く評価できる

  • 田中美子による「地域イメージ・ダイナミクス」論
地域イメージ・ダイナミクス(モデル図)
地域イメージ・ダイナミクス(モデル図)
  • 現在ではNPO法人が農業振興による活性化を模索中
やまだの案山子
やまだの案山子

2-5. 当時の研究成果:「コミュニティの二重性」

コミュニティの二重性(モデル図)
コミュニティの二重性(モデル図)

2-6. 具体例を理解するポイント

  • 地域コミュニティにおける「CMC」観の変容
  • CMCメディア=インターネットの受容の実態
  • 地域コミュニティと仮想的なコミュニティの接合
  • ある地域住民へのインタビュー結果から考察

2-7. 結論:二つのコミュニティの接合

  • 「のりしろ」は地域コミュニティと仮想的なコミュニティを接合する
  • 仮想的なコミュニティは地域コミュニティを相対化するための関係性構築のプラットフォーム
  • 接合後に構築される「仮想的な地域コミュニティ」
  • 地域住民にとって仮想的な地域コミュニティに寄与する活動への「元手」(資本)が「のりしろ」

3. CMCに現れる「地域性」

  • CMCにおける「地域性」とは何か
    • 二つのコミュニティを接合する「のりしろ」
    • 「のりしろ」をどのように構築するのか
    • そこに「地域性」が現れる
  • 地域社会の中でCMCを行うということ
    • 地域活性化を志向した「のりしろ」の構築
    • 山田村の事例:ひとつの成功例

4. インタビュー調査の概要

  • 富山県(旧)山田村での地域情報化事業
    • 詳細は内田(2006a, 2006b, 2006c)
    • 小松・小郷(1998, 1999),山田ほか(2001)を参照
  • インタビュー時期/インフォーマント
    • 調査時期は1998年9月,2002年3月,2007年3月の3回
    • 毎調査ごとに7ないし9名のインフォーマントを対象
    • 複数の同じインフォーマントに対して継続的に実施
    • 同時に地域行事への参与観察も実施

4-1. インフォーマント:KTさん

  • 旧山田村(2005年4月に富山市と合併)の住民のひとり
  • 男性・50歳代前半(1998年調査当時)
  • 村内にて自営業(食料品店)を経営
  • 村外での就業経験あり
  • 地域情報化事業の中心的担い手のひとりでもある

4-2. インタビューからわかること

  • インフォーマントにおける「CMC」観の変容
  • 1998年調査:地域活性化に必要な関係性を構築するCMC
  • 2002年調査:地域間格差の象徴としてのCMC/CMCの力を再確認
  • 2007年調査:関係性を維持・拡大するCMC

4-3. 1998年調査 CMCとの出会い

  • PCとインターネットの導入について

世界の最新の情報が,自分のところで必要に応じて…それで村おこしをやりたいんだっていう,そういう話に感化されたというか.

  • 初めてCMCを経験した驚き/喜び

電子メールを始めて一番最初に驚いたのは,誰か一人から不特定多数の人に同時にメールを送れるっていう.(中略)それに関して,こんな素晴らしいものはないなと.

4-4. 1998年調査 関係性構築とCMC(1)

  • オンラインでの関係性の構築

(注:村おこしイベントの)「ふれあい祭」のことでワイワイ言うようになってからは電子メールを開いて読んで返事して,っていうところに時間を費やすっていうか.

  • オンラインの関係性がオフラインへ転化

(注:村内外の住民が参加するメーリングリストの)「MLやまだ」の場合だったら,しょっちゅう皆さんと実際の交流ができてるんよ.(中略)肌と肌のつきあいがひとつのメーリングリストを通して集まっている,というところが楽しいじゃないですか.

4-5. 1998年調査 関係性構築とCMC(2)

  • オフラインでの関係性の構築

自分なりに早くから(注:コンピュータとインターネットを)入れ始めたぶんだったので,ある程度他の村内の皆さんにアドバイスができるという(中略)普段顔と名前はわかっていても話す機会がない人びとと新しいつきあいがはじまったというか.

  • オフラインでの関係性の強化

橋渡しはパソコンなんだけど,実はパソコンの話だけでおわんなくて,世間話とかなんとか,いろんな話が出てきて,結局中身が濃くなるというか,会話の中身が濃くなるというか.これ自身もパソコンが配られなければありえなかったことで.

4-6. 1998年調査 関係性構築とCMC(3)

  • オン/オフでの関係性がもたらすもの

交流こそが地域おこしである,活性化に欠かすことができない重要な仕掛けだということをさとった.(中略)(注:村外の住民は)全く自分が想像もしないような話を持ち出してきてくれる. (注:村民と異なり)外の人と話すと全く違う見方があるとか,そういう新しい世界を見て自分も考え直すとか,自分の村を見つめ直すということが,一番その…大事なんじゃないかな.

(注:オン/オフでの関係性から得られたものは何かという問いに対して) 「MLやまだ」とか(注:別のメーリングリストである) 「山田村ネットワーク」とかでワイワイやって交流して,豊かで住みやすい山田村にするための知恵というかヒントを皆さんから頂ければ,それが一番楽しい.

4-7. 2002年調査 地域間格差とCMC(1)

  • 社会のIT化に遅れる山田村

CATV(注:CATVインターネットのこと)なんかもう,山田村が情報センターが始まって一年くらい後には,もうすでに八尾(注:山田村に隣接する自治体)に入ってましたもの.そのとき山田村の要するにISDNの5倍くらいの速さで.

  • 専門家・人材の不在

(注:県庁内部において)専門家がいないっていう.はっきりしたその道しるべをつけてくれるような専門家がいないもんで,前進もうにも進みにくいっていうか.県のその係がそうだから,村の例えば議会とかだったらなおさらまったく光ファイバーも「ひ」の字もわからんという状況だから.

4-8. 2002年調査 地域間格差とCMC(2)

  • 地域情報化事業の牽引者としての不満

基本的に俺ね,すごく欲求不満なところがあるのは,要はその,行政っていうか,村づくりを進める上で,そのインターネットをもっともっと活用して欲しいなっていう,欲求不満があるね.

  • CMCのもつ力を実感しているがゆえの感情

せっかくこれだけの情報機器をさ,あれしたんなら(注:村に導入したのなら)使わないかなっていう素朴な欲求不満があるんだよね.

4-9. 2002年調査 CMCのもつ力(1)

  • 先駆者としての自覚

もうこういう時代のさきがけに,すでにそういう機能を自分で,そういう道具を手に入れられたっていうのは,これは自分にとってはすごくラッキーだったな(中略)なんか自分もやらなきゃいかんけど,どうすればできるのかなとか,今頃きっとねイジイジしてたと思うよ.

  • 社会の動きに追従できているという感覚

(注:社会のIT化に対して)ギャップは感じないと思う.スムーズにその波にのっかっていけたっていうこと.

4-10. 2002年調査 CMCのもつ力(2)

  • CMCがもたらしたものの再確認

これが(注:インターネットが)できたおかげで,こんなできたおかげで,付き合う人も全く広がったし.(中略)特に言えるのはね,村以外の人との交際範囲がすごく増えた.(中略)みんなそうだと思うね.で,片やこれが未だにできない人は旧態依然と言えばいいか,ずーっと今までと同じような生活しか,生活パターンしかないと思う.(中略)それだけ要するに世間が広がったっていうことでないかな.

4-11. 2007年調査 地域活性化とCMC

  • CMCが形成した関係性に基づく地域活性化へ

(注:情報ボランティアとして交流してきた)学生さんたちと付き合うときにはいつも過疎のことを考えていて,考えながら話をしたり聞いたり,過疎の対策に活用するっていうか(中略)何かを生かせないかっていつも考えながらつきあっていたところがあるわけなの.

  • 具体的な活動例:青空市場

(注:青空市場を支える産直組織は)17〜8人が会員となって共同でやってて,そのほとんどは「ふれあい祭」でいろんなことを勉強した,させられたっていうかさ.

4-12. 2007年調査 関係性維持・拡大とCMC

  • すでに構築した関係性の維持を志向する感情

(注:過去に盛んに交流したが,現在は交流ないAさんについて)そういう人は,また仲間っていうところがあるから,その時に印象は覚えているからお互いの共通の気持ちの通う仲間だなっていうことはあるから,それだけあれば.

  • 構築した関係性は再活性化可能だという感情

かつての仲間というのは,当然理解をしてくれているはずだから,で,俺が言っていることは,皆も気持ちの上で理解者だから,当然何かの時には私も参加します,オイラも参加するよって感じで集まってくれるんだろうなと.

5. 考察

  • CMCに対する感覚:時系列での変化
    • 要因1:本人の語りそのものの変化
    • 要因2:社会全体のIT化という変化
    • 要因3:村内の情報環境の変化
  • 約10年にわたる調査期間の中でインフォーマントにとって一貫している事柄はなにか?

5-1. <コミュニティの二重性>と「のりしろ」

地域コミュニティ = 山⽥村



二つを接合する「のりしろ



仮想的なコミュニティ = CMCコミュニティ

5-2. 「のりしろ」とは何か(1)

  • CMCにより構築された関係性
    • 山田村 = 地域コミュニティの内外を巻き込んだ形
    • オンラインとオフラインのバランス
      • 電脳村ふれあい祭(地域活性化を目指した地域行事)
      • こうりゃく隊(地域行事のサポート・グループ)
      • ふれあい農園(近隣地域住民との交流)
  • この時期(1997年から2002年)に構築された関係性がその後の地域活性化への「元手」となった

5-3. 「のりしろ」とは何か(2)

  • インフォーマント(KTさん)にとっての「のりしろ」
    • 「私」と地域コミュニティを接合するもの
    • ただし身体をもったリアルな「私」は地域コミュニティに存在
  • 「私」(インフォーマントのKTさん)が理想とする(=「こうあって欲しいと思う」)山田村
  • 仮想的な地域コミュニティとしての「山田村」
  • 村民全てが共有せず,CMCにより形成されたという意味で「仮想的

参考文献

  1. 池田謙一・柴内康文,1997,「カスタマイズ・メディアと情報の『爆発』—電子ネットワークの外部条件」池田謙一編『ネットワーキング・コミュニティ』東京大学出版会,26-51.
  2. 内田啓太郎,2006a,「インターネットがもつ地域メディアとしての可能性—<コミュニティの二重性>と地域性からの考察」『北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)』56(2): 1-11.
  3. 内田啓太郎,2006b,「インターネットはどのようなメディアなのか—主に地域メディア論からのアプローチにもとづく一試論」『北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)』57(1): 1-10.
  4. 内田啓太郎,2006c,「地域コミュニティとCMCコミュニティの接合をめぐる考察—富山県山田村における地域情報化事業の事例から」第79回日本社会学会大会(於立命館大学)報告原稿.
  5. 岡林哲夫,1996,「山田村(富山県)の情報化について」(http://web.archive.org/web/20050205035830/www.midori.com/yamada/yamada_1.html, 最終閲覧日 2009.6.30)
  6. 岡林哲夫,1997,「山田村の情報化について(2)」
    (http://web.archive.org/web/20050212081252/www.midori.com/yamada/yamada_2.html, 最終閲覧日 2009.6.30)
  7. 加藤晴明,1991,「パソコン通信のメディア特性——“愛と幻想のメディア”をめぐる中間考察」『中京大学社会学部紀要』6(1): 201-80.
  8. 加藤晴明,1992,「パソコン通信をめぐる検証課題」『中京大学社会学部紀要』7(2): 151-77.
  9. 川上善郎,2001,「ウェブコミュニケーションのもたらすもの」東京大学社会情報研究所編『日本人の情報行動2000』東京大学出版会,249-70.
  10. 清原慶子,1989,「地域メディアの機能と展開」竹内郁郎・田村紀雄編『【新版】地域メディア』日本評論社,37-55.
  11. 倉田勇雄,1997,『山田村の行進曲はインターネット』くまざさ社.
  12. 小松裕子・小郷直言,1998,「山田村が抱える情報化3年目の現状と課題」日本社会情報学会関西支部研究会(於大阪大学)報告原稿.
  13. 小松裕子・小郷直言,1999,「メーリングリストから見た山田村」『高岡短期大学紀要』13: 17-34.
  14. 竹内郁郎,1989,「地域メディアの社会理論」竹内郁郎・田村紀雄編『【新版】地域メディア』日本評論社,3-16.
  15. 寺岡伸悟,2003,『地域表象過程と人間——地域社会の現在と新しい視座』行路社.
  16. 成田康昭,1992,「メディア経験とコミュニケーション—パソコン通信ネットにおけるコミュニケーション満足(I)」『中京大学社会学部紀要』7(2): 179-228.
  17. 成田康昭,1993,「メディア経験とコミュニケーション—パソコン通信ネットにおけるコミュニケーション満足(II)」『中京大学社会学部紀要』8(1): 89-149.
  18. 古川良治,1993,「電子コミュニティの<虚>と<実>」池田謙一・川上善郎・川浦康至・古川良治『電子ネットワーキングの社会心理—コンピュータ・コミュニケーションへのパスポート』誠信書房,106-37.
  19. 山田晴通,1997,「地域(特集 現代マス・コミュニケーション理論のキーワード)」『マス・コミュニケーション研究』50: 16-23.
  20. 山田晴通ほか,2001,「富山県山田村のコンピュータ利用状況調査(速報資料)」『地理学報告』92: 44-9.
  21. 野崎賢也,1996,「農山村におけるコミュニケーションとインターネット—<地域社会>と<仮想社会>」『京都社会学年報』4: 147-61.
  22. 船津衛,1999,「地域情報の社会心理」船津衛編『地域情報と社会心理』北樹出版,11-29.
  23. MacIver,R.M.,[1917]1924,COMMUNITY: A Sociological Study,3rd ed.,London:.Macmillan and Co.(=1975,中久郎・松本通晴監訳『コミュニティ』ミネルヴァ書房.)

第9回(11月19日)インターネットと地域社会/地域コミュニティ(続)―情報と都市・地域社会の関係を考える

※ 今回は前回(11月12日)の続きとなります.資料も前回のものを使用します ※

第10&11回(11月26日/12月3日)ゼロ年代における「デジタルネイティブ」の誕生と対人関係のあり方―情報と生活・文化の関係を考える

1. きょう話すこと

  1. デジタルネイティブとは誰か
  2. デジタルネイティブ論への批判
  3. オンラインコミュニケーションの形態とデジタルメディアの特性
  4. デジタルネイティブからみた日本社会のコミュニケーション空間

2. 今回の授業のネタ元(参照先)

  • 木村忠正(2012)『デジタルネイティブの時代 なぜメールをせずに「つぶやく」のか』平凡社新書.
  • 著者のWebサイト —> 「木村忠正の仕事部屋http://www.ne.jp/asahi/kiitos/tdms/hp.j.html)」

3. デジタルネイティブの誕生と批判

3-1. デジタルネイティブの定義

「デジタルネイティブ」とはICTに青少年期から本格的に接触した世代

  • 1980年前後以降に生まれた世代
  • 2001年:米国のM. プレンスキーが提唱
  • ICTを利用する能力・スキル・行動と言葉の使い方
  • デジタルネイティブ native とデジタル移民 immigrant

3-2. デジタルネイティブ論への批判

  • デジタルネイティブ論における主張(骨格)
    1. 高いICTリテラシー(知識とスキル)を備えた世代
    2. 世代特有の学習スタイル(デジタルネイティブ世代が特に好む学習スタイル)の存在
  • 反「デジタルネイティブ」論
    1. ICTリテラシー能力は世代内でも個人間の差異が大きい
      • デジタルネイティブ世代を一様にとらえることが社会的な問題を隠蔽するおそれ
    2. 日常生活でのICT利用と学校教育でのICT利用とその効果は区別して考察する必要がある

デジタルネイティブを巡る議論が表層的なものに陥る危険性がある.

  • S. ベネット( Sue Bennett )らによるデジタルネイティブ論批判
    • 概念そのものへの批判と議論に対する脆弱性(弱点)の指摘
  • デジタルネイティブ論は十分な実証データに裏付けされていない

「デジタルネイティブ世代」と他の世代(それ以前の世代)との差異を強調するあまり,デジタルネイティブ世代の中にある差異に関心を払わない.また利用状況(日常生活か学習環境か)を同一視する傾向がある.

3-3. ネット社会分析としての「デジタルネイティブ」

  • 「デジタルネイティブ」概念は1990年代における日本のネットワーク社会化を分析する重要な視点
    • 1980年前後生まれ以前/以降の世代 で対比
  • デジタルネイティブ世代そのものを情報ネットワークの進展(「四つの波」)に対応させて詳細に分析する
    • デジタルネイティブ「4世代」分化説
  • 初期のデジタルネイティブ世代は30代に
    • ネットワーク社会である日本社会を分析する手法として適切
  • デジタルネイティブ世代が社会の中核世代になっていく過程を分析
    • 2000年代(「ゼロ年代」)の社会の分析

3-4. 木村によるデジタルネイティブの世代区分(4世代)+将来予測

第1世代(〜1982年生まれ)

  • ポケベル(ポケットベル),ピッチ(PHS)世代
  • コンテンツが不十分で,ストラップ,デコレーション,絵文字などで自己表現
  • 「デジタル移民」の要素が強い

第2世代(1983〜87年生まれ)

  • 高校時代,パケット代を気にしながら携帯メール使う
  • PCチャットに小・中学校ではまる人も
  • 大学時代にミクシィが始まり,急成長を担う中核世代に

第3世代(1988〜90年生まれ)

  • 女子中高生の問で携帯ブログ・リアルが大流行
  • 高校でパケット定額制となり,SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、動画サイトが普及
  • ブロードバンド常時接続は中学生で経験

第4世代(1991年生まれ〜)

  • 小学校でPCの授業
  • 中学からパケット定額制となり,複数のSNS,ブログを使い分ける
  • オンラインだけの人間関係,ボットも生活の一部に

第5世代?(1994年生まれ〜)

  • 小学校でブロードバンド常時接続を経験
  • 中学校でTwitter登場,ニコニコ動画(β ver.)サービス開始,iPhone発売開始
  • 高校でニコ動ユーザ100万人達成,ネット人口普及率は78.2%(高校生は95.6%

4. デジタルネイティブにおけるオンラインコミュニケーションのあり方

4-1. 日本社会における情報ネットワークの普及

  • 第一の波(1996〜2000)
    • 携帯電話の普及/音声通話・電子メールのモバイル化
  • 第二の波(1999〜2004)
    • インターネット利用者の拡大/携帯電話の「ケータイ」化
  • 第三の波(2003〜2008)
    • インターネットのブロードバンド化/Web2.0の登場
  • 第四の波(2008〜2011)
    • 「スマホ」の登場/モバイル・インターネットの拡大

4-2. 社会的コミュニケーション空間の構造と変容

絶えず創り出される「空気」

  • デジタルネイティブ(に関する議論)における「空気」
    • ミクロなコミュニケーション環境,つまり1対1または少数間での対人コミュニケーションにおける圧力
  • 場の気分・雰囲気・感情を同調させる圧力とオンラインコミュニケーションの関係
    • ボワセベンの対人距離のゾーニングモデル【図1】
  • 空気はすでに存在し,受動的に読み取るものではない
    • コミュニケーションの状況と当事者たちの相互作用の中で絶えず創り出される

【図1】エゴ中心対人距離ゾーニングモデル(ボワセベン)【図1】エゴ中心対人距離ゾーニングモデル

距離感と圧力のコントロール

  • 対人距離感と空気を読む圧力はゾーンごとに適切なレベルが設定される【図2】
    • 個別の対人関係においても実践 = コミュニケーションにより絶えず創り出されるもの

【図2】ゾーニングごとの対人距離感,空気の圧力【図2】ゾーニングごとの対人距離感と空気の圧力

  • 距離感と圧力のレベル・コントロールはメディアを媒介したコミュニケーションでも行われる
    • メディアコミュニケーションの構成要素を距離感と圧力のレベルをコントロールする手段として利用する
  • それぞれのメディア内部で分化し,メディア同士の相互作用により社会的コミュニケーション空間を構成する
  • メディアは行動・態度・言葉遣いの複合的体系と社会的コミュニケーション空間を構成する【図3】
    • それ自体と他のメディアとの相互作用による
    • 対人距離感&空気を読む圧力のレベルを創り出す

【図3】オンラインメディアによる社会的コミュニケーション空間の構造【図3】オンラインコミュニケーションメディアによる社会的コミュニケーション空間の構造

  • デジタルメディア = オンラインコミュニケーション
    • (アナログメディアにより構成された)社会的コミュニケーション空間を解体・再構築した
    • デジタルメディアの空間は動的に更新され続け,解体と構築がパラレル(並行して)行われる

5. ゼロ年代日本のオンラインコミュニケーションと社会

5-1.「空気」を読む圧力

  • ブログ(Weblog)による社会関係の分節化【図4】
    • ブログの読み手とは既知/未知の関係性
    • オンライン「のみ」の関係を構築できる可能性
      • 「同じ関心・趣味」という空気の共有
      • 「空気を読む」ことを強制されない関係
  • ブログにより「見知らぬ1次」の関係性が登場

【図4】コミュニケーションメディアによる対人関係の分節化【図4】コミュニケーションメディアによる対人関係の分節化

5-2.「テンション共有」による親しさの増大

  • 「気分の高揚感」としての「テンション」
  • コミュニケーションにおける「テンションの共有」へのアンビバレントな態度
    • コミュニケーション生態系の形成・変容
  • テンションの共有(シンクロ)への志向性【図5】

【図5】親密さ/テンションによるコミュニケーション空間の構造【図5】親密さ/テンションによるコミュニケーション空間の構造

  • 「インティメイト・ストレンジャー」論(富田英典)【図6】
    • 親密さ(富田)=親密さ(木村)+テンション共有

【図6】親密性と匿名性による対人関係空間の構造

  • テンション共有を無理強いしない,というベクトル
    • Twitterというアーキテクチャ

5-3.「コネクション」という社会原理の拡大

コミュニティとソサイエティ

  • コミュニティ = 情緒的親密さを含む長期継続的・安定的な関係
    • ミクシイ(mixi
  • ソサイエティ = 近代社会・産業社会における都市空間/パブリックとプライベート/派生語「ソーシャル」
    • フェイスブック(Facebook
  • コミュニティとソサイエティは情報ネットワークにおける対人関係・集団形成のメタファとして機能

「コネクション」のベクトルをもつコミュニケーションへの志向

  • 新しい対人関係・集団形成の原理
  • 多様性・差異・変化・流動性
    • ツイッター(Twitter
  • ツイッターのアーキテクチャが実現するコミュニケーション
    • 「場(場所)」・「(会話の)キャッチボール」というメタファの解体
    • 「タイムライン(TL)」は一定した安定性や境界を持つ「場所」や「コミュニティ」ではない
    • 会話の「キャッチボール」ではなく「つぶやき」に「絡む」ことで実現するコミュニケーション
  • ツイッターはフォロー/フォロワーの非対称的=非互酬的関係をベースとしたコミュニケーション
    • 「絡み」によるコミュニケーションがテンション共有への志向性と合致

5-4. 高い「不確実性回避傾向」

  • サイバースペースに対する強い不信感
    • ネット利用に伴う不安感
  • オンライン上での低い自己開示高い匿名性への志向にある背景
    • 一般的な社会的信頼感の低下
  • 「不確実性回避傾向」(組織人類学者ホフステードが提起した概念)
    • 不確実な状況や未知の状況に対して脅威を感じる程度
    • (日本社会では)社会的信頼感の高低とネット利用に伴う不安感にはほぼ関係がみられない

5-5. 今後の課題

  • 日本社会にみられる高い不確実性回避傾向の克服(解消)
    • 「安心志向のジレンマ」
  • 「ソサイエティ原理」の強化

参考モデル図

※ クリックすると大きいサイズの画像が表示されます.このレジュメをスマホで読んでいる場合はご注意ください.

第12回&第13回(12月10日/12月17日)ゼロ年代からテン年代のウェブ文化―情報と生活・文化の関係を考える

1. ネット文化の担い手は誰だったのか

  • ネット特有の文化が成立するプロセス(ばるぼら)
  • ネットらしさ=「ネット的
    1.  ネット的な態度・気分が生み出した文化
      • 米国のハッカー文化
      • 1960年代のヒッピー文化と「カウンターカルチャー
      • DIY(Do It Yourself)」文化
    2.  ネットの設計・運用のあり方(思想)
      • 設計面では…
        • オープンなネットワーク環境
        • 反「囲い込み」
        • SNSは「半分」ネット的
      • 運用面では…
        • ユーザの自主性
        • 「名乗り」の自由度
        • 双方向性
        • 情報の自由度

2. ウェブ1.0の時代(1990年代)

  • インターネットが社会へ普及する代名詞「ホームページ
  • パーソナルかつデジタルな情報「発信」の手段
  • メディアの持つ潜在力は「双方向性」/可能的様態(水越伸)としては「単方向?
  • 「テキストサイト」と「個人ニュースサイト」
    • 発表」することへの欲求と満足

3. ウェブ2.0の時代(2000年代)

  • ティム・オライリー(考案者)と梅田望夫
  • 集合知の空間
    • Wikipedia(ウィキペディア,2002年夏頃に日本語対応)(→UGC/CGMへ)
  • ウェブログ(Weblog)の登場と「ブログ論壇(ブロゴスフィア)」への期待
    • はてなダイアリー(2003年3月)/ココログ(2003年12月)
    • コメント」と「トラックバック」による双方向コミュニケーション
    • 日本のウェブにある(あった)「ウェブ日記」文化
    • 電子的な公共圏の形成という理想(あるいは夢想)
    • ネットにおける情報流通の変容(加野瀬未友によるised@glocom(情報社会の倫理と設計についての学際的研究)倫理研第4回の講演録,2005年5月)
  • UGC(User Generated Content)/CGM(Consumer Generated Media)化するウェブ
    • 2ちゃんねる/ニコニコ動画/YouTube
    • ウェブ2.0時代のアイドル「初音ミク」(2007年8月発売)
      • Google ChromeのCM
    • UGCの「C」は集合知の「
      • 「みんなで作ったコンテンツは(案外)面白い」
      • Content(s)からCommon(s)へ/Commons-based peer production(ヨハイ・ベンクラー)
    • みんなで(peer)コンテンツを作る場=CGM
      • CGMの「C」はConsumer(消費者)だが生産=消費者(Prosumer, プロシューマー)化する
  • アーキテクチャの生態系』(濱野智史)
    • 擬似同期(ニコニコ動画)と選択同期(Twitter)
    • 濱野智史(2008)アーキテクチャの生態系マップ
  • 「発表」から「参加」へと欲求・満足が変化
    • その萌芽は90年代末からゼロ年代初頭にあった
    • <つながり>の社会性」(北田暁大)と「ネタ的コミュニケーション」(鈴木謙介)
      • 2ちゃんねるのアイロニズム(冷笑主義)と「内輪の空気」の維持(北田)
      • 次のコミュニケーションへと接続するためにコミュニケートする(鈴木)
    • 「終わりなき」参加=<つながり>のゲーム
  • Google + Amazon = Googlezon(グーグル・アマゾン化する社会

4. リアルタイム・ウェブの登場とソーシャルメディア化へ(2010年代)

  • SNS(ソーシャルネットワークサービス
    • Facebook(フェイスブック)/mixi(ミクシィ)/Twitter(ツイッター)
    • 「名乗り」によるアイデンティティ問題
    • 「コミュニティ」か「クラスタ」か
  • ウェブの「24時間営業」化=リアルタイム・ウェブ
  • ソーシャルメディア化するウェブ
    • あらゆるウェブ・サービスが統合されていく
  • ウェブのコンテツを「共有(シェア)」して「共感(いいね!)」しよう
  • ウェブの未来または「アプリ化」するインターネット

5. まとめ

ウェブをめぐるアーキテクチャの進化
ウェブをめぐるアーキテクチャの進化
(画像をクリックすると大きいサイズで表示されます/印刷用PDFはこちら
  • Web1.0(それ以前の「0.x」の時代から)ソーシャルメディア化した現在までのウェブの歴史は,ウェブを象徴するキーワードが「表現」から「参加」そして「共有(共感)」へと変化していった歴史でもある.
  • 2000年代(ゼロ年代)のウェブ文化は,UGC=みんな(User(s))で「参加して」作り上げる/盛り上げる(Generated)コンテンツ(Content(s))が中心のものとして捉えられる.これらのUGCを支える「場」がCGMである.CGMは「参加のアーキテクチャ」により構成され,その場でわたしたちは,消費者(Consumer)ではなく生産=消費者(Prosumer)になっていく.

参考文献(このレジュメからリンクしたもの以外)

  • Hillery, G.A.Jr (1955) Definitions of community: Area of agreement. Rural Sociology, 20.
  • 川上善郎・川浦康至・池田謙一・古川良治(1993)『電子ネットワーキングの社会心理』誠信書房
  • ハワード・ラインゴールド(会津泉訳)(1995)『バーチャル・コミュニティ』三田出版会
  • 村井純(1995)『インターネット』岩波新書
  • 浜野保樹(1997)『極端に短いインターネットの歴史』晶文社
  • 村井純(1998)『インターネット2―次世代への扉』岩波新書
  • 加藤晴明(2001)「コンピュータ・コミュニケーションのメディア文化」『メディア文化の社会学』福村出版
  • 喜多千草(2003)『インターネットの思想史』青土社
  • ティム・バーナーズ=リー(高橋徹監訳)(2001)『Webの創成―World Wide Webはいかにして生まれどこに向かうのか』毎日コミュニケーションズ
  • ばるぼら(2005)『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』翔泳社
  • 山形浩生監修(2006)『あたらしい教科書(9)コンピュータ』プチグラパブリッシング
  • 三浦麻子(2008)「インターネット革命―私たちのコミュニケーションを変えたもの」橋元良明編著『メディア・コミュニケーション学』大修館書店
  • 大向一輝・池谷瑠絵(2012)『ウェブらしさを考える本―つながり社会のゆくえ』丸善ライブラリー
  • 粉川一郎(2012)「ネット空間の中の私たち」矢田部・山下編『アイデンティティと社会心理』北樹出版
  • 杉本達應(2013)「文化としてのコンピュータ―その「柔軟性」はどこからきたのか」飯田豊編『メディア技術史』北樹出版
  • 杉本達應(2013)「開かれたネットワーク―インターネットをつくったのは誰か」飯田豊編『メディア技術史』北樹出版
  • 粉川一郎(2013)「ネットコミュニティのプロデュース」中橋雄・松本恭幸編『メディアプロデュースの世界』北樹出版
  • 村井純(2014)『インターネットの基礎―情報革命を支えるインフラストラクチャー』角川学芸出版
  • ばるぼら(2014)「日本のネットカルチャー史」川上量生監修『ネットが生んだ文化―誰もが表現者の時代』角川学芸出版

第14回(1月7日)授業のふりかえり―今学期に話したこと&学期末レポートに関する質問受付

きょうの授業では授業全体のふりかえりとして,今学期に話したことの中から内容理解の要点となる箇所を再度説明します.

またみなさんが現在取り組んでいる,学期末レポート(定期リポート)に関する疑問・質問にもどんどん答えていきます.


※  ここよりあとのパートは授業の進行状況にあわせて扱うかどうか決めます.※

1. このパートの目的

このパートの目的は,現代のネット社会においてインターネットがわたしたちのアイデンティティをどう創り上げていくのか,このことについて説明します.つまり前回の授業の内容を踏まえ,もう少しインターネット(というメディア)寄りの話をします.より具体的な説明を行う,と理解しても構いません.

2. メディア/コミュニケーション/アイデンティティ

2-1. アイデンティティと他者

ここでもういちどアイデンティティとは何か,振り返りましょう.アイデンティティは「ほかから区別されたひとまとまりの自分」が存在する,と説明できます. 1)これは他者の存在を前提としており,他者とのかかわり=関係性において表現し(説明し),位置づけることができるのです. 2)ですから先週の説明で挙げた社会学者のうち,G. H. ミードの主張の方がしっくりくるかもしれません. 3)

ここまで,アイデンティティを創り上げるために他者が必要なことをを説明しました.他者が必要だ,他者の存在を前提とする,とはどういった意味でしょうか.これは(前回の説明を踏まえれば)他者とのコミュニケーションが必要であり,他者とコミュニケーションを積み重ねていくことが前提である,というものです.もちろん他者とコミュニケートするためには,その道具であるメディアが必要であることは言うまでもありません.

ここで話を一挙に転換し,インターネットというメディアを道具として使うネット・コミュニケーションが,わたしたちのアイデンティティをどのように創り上げていくのか,次からはネット・コミュニケーションにおける「名乗り」について説明することで,この問題を考えていきましょう.

2-2. ネット・コミュニケーションの特徴

ネット・コミュニケーションについて社会学や社会心理学ではCMCComputer-Mediated Communication)と呼ぶことがあります. 4)CMCの「C」はコミュニケーションの意味ですからCMCを通じてアイデンティティを創り上げることは可能だろう,と容易に想像できますね.

ではCMCをコミュニケーションの形態・形式の面から考えましょう.日本においてCMCは一般的には1985年頃からパソコン通信という形態で始まりました. 5)その時点から現在までCMCの基本的な特徴として文字を中心としたコミュニケーションである,ということができます.つまり電子化(デジタル化)された文字(テキスト)をコンピュータを媒介にして双方向でやりとりする電子テキスト通信であるのです.もちろん現在のインターネットではさまざまな形で情報を送り合うことができますが,CMCがテキスト中心のコミュニケーションであることは揺らがない事実でしょう. 6)

つづいてCMCをテキスト中心のコミュニケーションと捉えた際に,その特徴をいくつか説明します. 7)

  • 時間と空間の制約を受けない「非同時性・時間差」コミュニケーション
  • 双方向/多方向のコミュニケーション(1×1, 1×n, n×n コミュニケーション)
  • 表現・参加・共有型コミュニケーション(だれでも表現者

これらの特徴と,CMCにおける電子テキストが(1)タイムラグなく送信できて(2)送られてきたテキストを保存したうえ蓄積できる(3)情報としての再利用が可能である,というハードウェア面での特徴ともあわせ,マス・コミュニケーションとパーソナル・コミュニケーションの中間に位置づけられる中間型のコミュニケーションと捉えることが可能でしょう.

CMCがテキスト中心のコミュニケーションである,ということはコミュニケーションでやりとりされるものは単なるテキスト・データでしかありません.特にCMCのメディアであるコンピュータにとっては何らかの意味を持った文字情報ですらなく,それは0と1から構成されるデジタル信号以外の何者でもありません. 8)するとCMCというコミュニケーションを成立させるためには文脈によってそれを成し遂げるほかありません.テキスト中心のCMCにおける「表現の自由」とは「文脈の自由」と言えます. 9)

2-3. CMCにおける「名乗り」とアイデンティティ

さてCMCもコミュニケーションの一形態ですので「コミュニケートするわたし」つまり主体が存在しなくてはなりません.つまりCMCの「送り手」と「受け手」であるわたしたちにはそれぞれアイデンティティを持つはずです.今回の記事の前半で説明したようにアイデンティティはわたしではない他者とのコミュニケーションにより創り上げられます.言い換えるとコミュニケーションにおいて(コミュニケーションの主体である)わたしを他の誰でもない存在として区別する/区別される必要があるのです.この区別の方法のひとつとして「名乗り」があるわけです.つまりCMCにおいてわたしが実名で/顕名(ハンドルネームやニックネーム)で/匿名で名乗ることが,わたしのアイデンティティ形成にとってどういう意味を持つのか,引き続き考えていきましょう.

ここではCMCにおける「名乗り」について6つのパターンに分類します. 10)


  1. 裏づけのある実名
  2. ニックネームだが,裏づけのある実名をシステムで把握
  3. 裏づけのない実名
  4. ニックネームだが,裏づけのない実名をシステムで把握
  5. 完全なニックネーム
  6. 名乗らない

上記の6類型から特徴的なものを取り上げますと,1. と2. はかつての主要なCMCであるパソコン通信において特徴的な名乗り方と言えるでしょう.かつて(1980年代後半から90年代前半ごろ)パソコン通信の電子掲示板(BBS, Bulletin-Board System)では,ニックネーム(ハンドルネーム)で名乗りながら他者とコミュニケートするという形態が一般的だったのです.ただし個々のニックネーム(ハンドルネーム)が本当は誰であるのか,その実名をシステム側で(パソコン通信のホスト側で)きちんと把握しておりました11)ここで留意しておくことは,CMCでの名乗りをニックネーム(ハンドルネーム)という仮のものを使うため,オンライン上(ネット上)のわたしとオフライン上(現実世界)でのわたしとが非連続であるということです.

また4. は現在のみなさんにとってソーシャルメディアの利用を通じて馴染みのあるCMCということができるでしょう.ソーシャルメディアは現実世界の人間関係の一種の写し絵のような面がありますので,たとえCMCではニックネーム(ハンドルネーム)を名乗っていても他者からはその実名を把握しやすいものである一方で,その実名が本人であるか(本人が名乗っているか)確証が得られない(システム側も確実に把握できない/把握しない)ため,オンライン上とオフライン上のわたしは一応の連続性を保持しつつも,同一ではない(同一である保証はない)状態でもあるのです.

最後に6. ですがこれはインターネットの匿名掲示板を想定すればよいでしょう. 12)通常,コミュニケーションにおいて「誰がメッセージを発したのか」は非常に大きな要素となります.「誰が」コミュニケーションの主体なのか(送り手なのか)がコミュニケーションの成立を左右する場合もあるのです.そうするとCMCにおいて「名乗らない」コミュニケーションというのはテキストだけがメッセージとしてネット上を行き交うことになり,ネット上のわたしが存在しないような感覚でもあります.したがってオンライン上のわたしとオフライン上のわたしが非常に近い関係である(連続してもないし,同一でもない)と言えるでしょう.

3. まとめ

わたしのアイデンティティを創り上げるためには他者とわたしを区別する/区別される必要があり,そのためにコミュニケーションおいて「名乗り」をどうやるか,ネット・コミュニケーション全般を考えるうえでもこれは非常に重要な問題だと言えます.

文字情報に加え,文字以外の情報(非言語的情報)も交えてコミュニケートする場合と異なりCMCは(基本的に)テキスト情報のやりとりが中心となるコミュニケーションの形態であります.

したがってCMCを成立させるため,わたしたちは非常に高い文脈依存(ハイ・コンテクスト)にならざるを得ない一方で,どのように名乗るかもCMCの成立を大きく左右しています.あるいはCMCにおいて情報がどう伝わり,解釈され,評価されるか,そのことに大きな影響を与えているとも言えるのです.

そういう意味では,オンライン上の「わたし」というアイデンティティは,たとえそれがオフライン(現実世界)と連続している/連続してない,あるいは同一である/同一ではないことを問わず,名乗り方によっていかようにも創り上げることができるわけです.

次のパートではCMCにおいて名乗ることにより創り上げられるアイデンティティをネット人格と捉え, 13)継続的に名乗っていくのか(その名乗りに継続性があるのか)どうかが,CMCによるアイデンティティ形成や維持にどう関わってくるのか,さらには,そのような(ネット上のわたしたちである)アイデンティティが集合した状態,つまりネット・コミュニテイ(オンライン・コミュニティ)をどう捉えていけばよいのか.これらのことについて考えていきましょう.

参考文献

  • 加藤晴明(2001)「コンピュータ・コミュニケーションのメディア文化」『メディア文化の社会学』福村出版
  • 矢田部圭佑(2012)「私としての私」矢田部・山下玲子編『アイデンティティと社会心理』北樹出版
  • 粉川一郎(2012)「ネット空間の中の私たち」矢田部・山下編『アイデンティティと社会心理』北樹出版
  • 映画『(ハル)』(森田芳光監督,1996年公開)Wikipedia
  • 映画『電車男』(村上正典監督,2005年公開)Wikipedia

1. このパートの目的

前のパートで説明したネット社会におけるアイデンティティの問題について,CMC(Computer-Mediated Communication)というコミュニケーション形式(形態)がわたしたちのアイデンティティ形成にどうかかわってくるのかを,CMCにおける「名乗り」の継続性をもとにひきつづき考えていきましょう.

授業の後半ではあるアイデンティティをもった「わたし」たちが集い,コミュニケーションを交わし合うことにより形成される「コミュニティ」,いわゆる「オンライン・コミュニティ」について説明します.

2. CMCにおけるアイデンティティ問題(そのあり方を考える)

2-1. CMCにおける「名乗り」と継続性

前のパートでは「名乗り」方の3つの基本型(実名・顕名・匿名)にもとづく6つのパターンについて説明しました.ここではそれらに加え,名乗り(名乗り方)に継続性があるのかどうかという論点を示したいと思います.

まずここでの前提として,CMCにおいて顕名でコミュニケートする場合でも同じハンドルネーム(ニックネーム)で継続すれば,そこに「わたし」を見ることができるだろう,と述べておきます.さらにここでの「わたし」となるアイデンティティを「オンライン人格」と呼ぶことにしましょう.粉川一郎によるとCMCにおけるオンライン人格は,3つのパターンに分類されるとしています. 14)

  1. 同一人格であることをシステム側が担保する
  2. 同一人格であることを発言者がアピールする
  3. 同一人格であることを発言者もシステムも関与しない

ここで重要と言えるのは,CMCの主体としての「わたし」がオンライン人格を備えているかどうかは,主体の意志とは関係がないということです.つまりわたしたちが無意識であっても,同一の顕名でCMCを継続していけば他者の目からは,そこにひとつのオンライン人格として,アイデンティティが存在すると判断される,ということなのです(ただし3. のパータンは状況が少し異なり,そこにオンライン人格の存在を把握することは困難です).

2-2. CMCにおける「わたし」とは何なのか

1980年代後半からのCMCの歴史において,わたしたちのコミュニケーションの場であったパソコン通信や,1990年台中期から展開され始めた初期のインターネット空間に至るまで, 15)わたしたちはオンライン上のアイデンティティとオフライン上(現実世界)のそれとが連続していることを前提にCMCという社会的行為を行っていたと考えてよいでしょう. 16) その後,2000年台中期以降,ブログ(ウェブログ)の流行や,Web2.0の登場(ネットのCGM/UGC化)とソーシャルメディアの台頭まで視野を拡大するとCMCにおける「わたし」=アイデンティティを考えるフレームがいくつか浮かび上がってきます.

  1. アイデンティティが主に顕名を通じて形成され,それはオン/オフ双方に連続しつつ区別されるもの(オンライン人格)として存在する
  2. 匿名性のもとに他者とのCMCを継続しているが,そこにアイデンティティは形成されない(徹底した「わたし」の排除
  3. オンラインでは顕名を名乗り,場合により実名を名乗ることもあるが,いずれにせよオフラインでの実名とほぼ確実にリンクしたかたちでCMCを継続するため,アイデンティティにとってオン/オフの区別は意味を持たなくなってくる

上記のフレームに具体的なイメージを割り当てるとすれば,1. はパソコン通信やネット初期の掲示板や「ホームページ」の文化に,2. は「2ちゃんねる」に代表されるような匿名掲示板におけるCMCや集合行動に 17)3. はmixiやFacebook,LINEなどのSNS(ソーシャルメディア)でのCMCに,それぞれ当てはめて考えることができるでしょう.

前のパートからここまでの説明で,CMCにおける「わたし」=アイデンティティのあり方について考えることができました.次の章では,このような「わたし」たちが集合して作り上げる「コミュニティ」について考えていきましょう.

3. CMCにおけるコミュニティ

3-1. 「コミュニティ」とは何か

「コミュニティ」について,それはわたしたちが何らかの関係性にもとづいてコミュニケートする場所である,とひとまず考えます.アイデンティティと同様にコミュニティも,他のもの(他のコミュニティ)と区別されうるようなまとまりがなくてはなりません.このまとまりを社会学では共同性地域性という2つの指標の有無とその内容で把握しようとします.

共同性
同一のコミュニティに所属しているという感覚/所属意識のこと
地域性
自分たちが所属するコミュニティが特定の地域(地域社会)と紐付けられている,という認識

CMCにおけるコミュニティのあり方について,どう考えるべきか.先に補助線を引いておきましょう.上に示したコミュニティを把握する指標のうち,共同性についてはネット利用者の増大,ネット・メディアのコモディティ化(日用品化)にともない,その内容を変化させつつも,共同性そのものは存在している,と言えます.

もうひとつの指標である地域性については少し複雑になってきます.パソコン通信の時代や初期のネット空間では,地域性を明確に意識したコミュニティの形成を目指したケースが多くあり,この動きは現在のネットでも見受けられるものです.しかし(後述するように)匿名掲示板やブログなどのネット空間では地域性を軽視した,あるいはそれを無視/排除したコミュニティの形成が行われたケースもありました.その一方で,ソーシャルメディアの中には地域性の存在を明らかにアピールするものもあるため,CMCにおいて地域性の存在を一概には否定できない状況となっています.

3-2. オンライン・コミュニティの登場と変容

ここではCMCにおけるコミュニティを「オンライン・コミュニティ」と名付けることにしますが,その名称はさまざまに変化してきました. 18)その名称は何であれオンライン・コミュニティは初期のCMC空間であるパソコン通信の登場とともに登場してきたと言われています. 19)

登場してからしばらくの間,オンライン・コミュニティを捉えるフレームは以下のようなものでした. 20)

  1. 相互に共通した関心事を持っている/帰属意識を共有している共同作業を行っている
  2. 1. にかかわるコミュニケーションが展開される空間が必ずしも地域社会とリンクしているとは限らない

オンライン・コミュニティ上でのコミュニケーションは当然CMCでありますから,上記の1. はCMCにおける共同性の現れであり,2. は地域性の軽視(あるい無視)として捉えることができるでしょう.するとオンライン・コミュニティのあり方が3-1. での述べた(社会学でいうところの)コミュニティの定義からズレてしまうことがわかります.このズレ(というか混乱)に対しては電子ネットワーク 21)というメディアのもつ特性および(社会学における)コミュニティ概念のゆらぎについて考えることでひとまずの回答を与えておきましょう.

従来,わたしたちのコミュニケーションを社会における集合行動として捉えるなら,そのためには一定の広がりやまとまりをもつ物理的空間が必要です. 22)だからこそわたしたちのコミュニケーション空間がある地域性をもったコミュニティとして立ち現れてくるのです.

しかしパソコン通信やインターネットといった電子ネットワークはメディアがもつ特性により,このような物理的空間を必要としません.言い換えるなら,わたしたちのコミュニケーション空間は電子ネットワークの中に,まさに電子化された形で用意されているのです. 23)したがってオンライン・コミュニティには地域性が必要でないことが言えるわけです. 24)

ここまでの説明では(社会学での)コミュニティの定義をふまえていましたが,この定義も実はゆらぎを抱えていることがわかっています.コミュニティの定義に関する研究によると, 25)コミュニティの定義が研究(者)によって差異がみられ,全てに共通する要素は個々人の集合である,ということだけでした.ただし多くの定義においていわゆる地域性と共同性が要素として共通していたため,現代のわたしたちもコミュニティの定義としてこれらの要素を挙げるのです.

ここまでの説明をふまえれば,オンライン・コミュニティは「コミュニティ」ではないのか,という問いに対しては「当時は確かに「コミュニティ」であった」と答えることができそうです.そもそもコミュニティ自体が共同性のみでも成り立つがことが言えそうですし(少々強引ですが),オンライン・コミュニティに地域性がみられないとしても,CMCの空間として他の空間とは区別されうる点において,CMC空間に地域性「のようなもの」が存在すると言えるわけですから,オンライン・コミュニティにも共同性および地域性 26)がみられることをもって(社会学での)「コミュニティ」と呼んで差し支えがない,ということになります.

いま「当時は」と述べましたが,それでは現在では違うのか,オンライン・コミュニティは存在しないのか.この疑問については次の3-3. で考えてみましょう.

3-3. コミュニティからクラスタへ

先に結論から述べます.現在のインターネット空間では(Web上では)かつての「オンライン・コミュニティ」は存在しておらず(少なくとも一般的ではない),わたしたちがCMCを通じて形成するもの(=コミュニケーションのまとまり)は「クラスタ」であると言えます.

クラスタは社会学でも数理社会学や社会ネットワーク論といった研究領域でよく用いられる概念です.ここではわたしたちの「つながり(関係性)」がネットワークとしてひとまとまりになったもの(ネットワークとして可視化(見える化)されたもの)と考えておきましょう.

現在のネットでは(かつてのオンライン・コミュニティで見られた)共同性や地域性(ないしは地域性のようなもの)が見当たらないように思えます.「つながり」自体はなくなったわけではないので少なくとも共同性は存在しているように思えるのですが,それも一時的,瞬間的なものであり継続性が低いのです.また継続性が低いためCMCの主体である「わたし」(のアイデンティティ)が見えづらくなっているとも言えます. 27)

したがって,クラスタのように一時的な「つながり」さえ維持できればよく,いつでも「つながり」替える,「つながり」直すことが非常に簡単になってきています.またCMCの空間が非常に多様化しているため,同じ興味・関心にもとづいた「つながり」を同時に,複数のCMC空間でネットワーク化することができるのです.もはやかつてのオンライン・コミュニティにようにCMC空間としてのまとまりや他と区別することは意味を持たなくなってきているのです.

これからはオンライン・コミュニティではなく「クラスタ」がネット上のわたしたちのまとまりを的確に表現する言葉(概念)として,もっぱら使われていくのだろうと考えられます.

この「オンライン・コミュニティ」から「クラスタ」へ,というCMC空間の変容については別のパートにて具体例を多く上げながら再度説明する予定です.

4. まとめ

  1. CMCでは(顕名であっても)継続性を持って名乗ることで,そこにアイデンティティを作り上げることができる
  2. 電子化されたCMC空間であっても「わたし」たちの集合体であるオンライン・コミュニティが形成できる(できていた)
  3. 現在のネットでは「クラスタ」という一時的な「つながり」のまとまりが主流である

参考文献

  • Hillery, G.A.Jr (1955) Definitions of community: Area of agreement. Rural Sociology, 20.
  • 川上善郎・川浦康至・池田謙一・古川良治(1993)『電子ネットワーキングの社会心理』誠信書房
  • ハワード・ラインゴールド(会津泉訳)(1995)『バーチャル・コミュニティ』三田出版会
  • 加藤晴明(2001)「コンピュータ・コミュニケーションのメディア文化」『メディア文化の社会学』福村出版
  • 矢田部圭佑(2012)「私としての私」矢田部・山下玲子編『アイデンティティと社会心理』北樹出版
  • 粉川一郎(2012)「ネット空間の中の私たち」矢田部・山下編『アイデンティティと社会心理』北樹出版
  • 粉川一郎(2013)「ネットコミュニティのプロデュース」中橋雄・松本恭幸編『メディアプロデュースの世界』北樹出版

[注]

  1. 矢田部(2012)p.3
  2. 矢田部(2012)p.4
  3. 「一般化された他者」の役割を自分の内面を取り込み,他者との関係で自分を表現し,位置づける.そうしてアイデンティティを創り上げる.
  4. ここで “Computer” にデスクトップ/ノートPCだけでなく,スマートフォンやタブレットPCといったモバイル機器などインターネットに接続できるあらゆる機器を含めておきます.
  5. パソコン通信は現在ではほぼ廃れてしまった形態であり,わたしたちになじみあるインターネットとは発展の歴史や技術面で大きな相違があるのですが,このことについて別の授業回であらためて説明します.
  6. 一見,テキストからは遠いコミュニケーションの場であるニコニコ動画であっても(だからこそ?)テキストである「弾幕」がユーザ同士のコミュニケーションに対して重要な意味を持っていることは,CMCにおけるテキストの重要性を示すわかりやすい例でしょう.
  7. 加藤(2001)p.102
  8. 他の形態のコミュニケーションと異なりCMCはテキストのみでやりとりします.これは「社会的手がかり(social cue)」が欠如した状態となります.
  9. 実際には自分が相手に伝えたい情報を,なるべく上手く伝わるように言葉や文法の使い方に注意を払っています.CMCを成立させる秘訣のひとつはこの「行間を読む(読ませる)」ことにあると言ってもよいでしょう.
  10. 粉川(2012)p.120
  11. パソコン通信の掲示板について,映画『(ハル)』にその雰囲気がわかりやすく描かれています.
  12. たとえば「2ちゃんねる」.映画『電車男』を観ることでその雰囲気を一端を知ることができます.
  13. 粉川(2012)p.123
  14. 粉川(2012)p.124
  15. 「2ちゃんねる」が登場し,その利用者数を急速に拡大し始めた2000年台初期まで,としておきます.
  16. 粉川(2012)p.125
  17. たとえば「電車男」を想起してみてください.
  18. バーチャル・コミュニティや電子コミュニティと読んだり,少し漠然とメディア・コミュニティと呼んだりしてきました.
  19. パソコン通信でのオンライン・コミュニティについて本格的に議論した文献としてはH. ラインゴールドの『バーチャル・コミュニティ』や川浦康至らの『電子ネットワーキングの社会心理』があります.
  20. 古川(1993)p.106-107
  21. 過去のパソコン通信であれ,現在のインターネットであれ,電子化されている情報機器がネットワークで相互に接続されている電子ネットワークである,と言えます.
  22. 例えば公園や広場,会議室やカフェといった場所が想定されるでしょう.さらにそのような場所を複数含むものとして地域社会を想定しても構いません.
  23. 公園やカフェで他者とコミュニケートしなくとも,電子掲示板やWeb上でコミュニケーションを交わし合うことができますよね.
  24. 古川良治によれば,コミュニティにおける地域性の必然性が「現在ほどさまざまなメディアが存在しなかった時期に」求められていた,と述べています(池田ほか 1993, p.109).
  25. ヒラリー(1955)を参照のこと.
  26. 地域性のようなもの,ですから代替的機能を果たしていると言えます.
  27. その最たるものが「2ちゃんねる」でのCMCだと言えます.